千秋蕾デス。このお誕生日で3才になりまシタ。
だから、幼稚園に行くことになったんデス。
もう蕾は小さな赤ちゃんじゃないし、自分の将来の夢だって決まってるんデスよ?
それなのに、蕾にはピアニストの「ま」がつくジージがいて、蕾にもピアニストになれって、うるさいんデス。
大川の辰男ジージやヨーコは、楽しくって大好き!
三善の征子ちゃんも美人で優しくって大好き!
パリに来てくれたときは、蕾が大好きなふわふわでひらひらの可愛いお洋服をいっぱい持ってきてくれる。
雅之ジージも、最初はよかったんデス。
蕾のお家に来ると、蕾を抱っこしてピアノに座り、いろんな曲を弾いてくれた。
最初はとっても楽しかったケド……最近は蕾もやってみろといろいろ弾かされたり……。
挙句の果てには"蕾は大きくなったらジージの弟子になって、世界一のピアニストになるんだぞ?"なんて……。
それに、幼稚園に行きだしたら、先生やお友達のママたちまで、"パパとママも音楽家だから、蕾ちゃんは音楽家になるのよねー!"なんて……。
蕾はもう、うんざりなんデス!
蕾ちゃんの事情
蕾ちゃんが幼稚園に通うことになりまシタ。
真一クンはいろいろ心配して、そりゃーもう大騒ぎでシタけど……。
蕾ちゃんは、真一クンとのだめの娘デショ?
だから、真一クンの賢いDNAと、のだめのたくましさを受け継いでいるから、新しい環境に飛び込むのだって、へっちゃらなんデス。
お友達や先生たちとだって、あっという間に仲良しになって。
毎日、幼稚園楽しい!って元気に通っていマス。
今日は、幼稚園のノエルパーティー。
残念ながら生誕劇にはまだ出られまセンけど、蕾ちゃんは可愛らしい真っ白なケープをつけて、お友達と一緒に賛美歌の合唱をするんデス。
真一クンは仕事の都合でどうしても来ることができなくて……。
蕾ちゃんに何度もごめんって謝って。
のだめには購入したての最新型ムービーカメラを託して、「蕾の姿を一瞬も逃すな!!!」って、必死に頼んで出かけて行きまシタ。
ぷぷぷ……ちょっとカコ悪いデスけど、そんな蕾ちゃんにメロメロなパパの真一クンも可愛いデスね。
真一クンのためにも、のだめママ、撮影頑張りマスよ!
先生の手によって暗幕が開けられると、舞台の上に白いケープを纏った可愛い合唱隊が現れた。
得意げに顎をあげている子、恥ずかしそうにもじもじと俯いている子、自分の家族を見つけて嬉しそうに手を振る子、舞台に上がるのを嫌がって、舞台袖の先生のところに泣きながら駆け寄っては、舞台上に押し出される子……。
そんな幼稚園ならではの、ひっちゃかめっちゃか大混乱の舞台上で、蕾は1人、大人びた様子で冷静に立ち尽くしていた。
無表情というより、なにか決意を秘めたような、情熱的な瞳。
のだめはムービーの液晶画面に映る我が子の姿に何かを予感して、思わず液晶画面から目をそらし、舞台上の蕾を見つめた。
ピアノの伴奏が聞こえてきて、歌が始まる。
「……ぎゃぼ……」
のだめは聞こえてくる合唱に驚き、呆然と立ち尽くすのだった。
「はぁぁ?!蕾が音痴ぃ?!」
「ぎゃぼ!真一クン、声おっきいデスよ!
蕾ちゃんが起きてきちゃったらどするんデスか?」
夜遅く帰宅した真一に、蕾のノエルパーティーのムービーを見せるようにせがまれ、のだめはまず見せる前に話があると、真一をリビングのソファーに座らせ、話し出した。
「のだめもとっても驚いたのデスが、蕾ちゃんの歌は音痴なんていうような可愛いものではなくて……なんというか、もう音楽を全否定するような、それは破壊的なもので……。
蕾ちゃん、なんかあったのでショウか?」
「と、とにかく見せろよ。話はそれからだ」
ムービーをTVに接続し、蕾が起きてこないようにヘッドホンを繋ぐと、真一はTVの前に座り込み、鑑賞を始めた。
「お、おい……これはどういうことなんだ……」
一度見終わっても、納得できないというように二度三度と繰り返し見て、真一はしばらく放心状態だった。
やっと重い腰を上げ、ソファーに座るのだめの隣にやってくると、力なく座り込む。
ムービーの中で合唱をする蕾は、少し怒ったような表情。挑戦的な瞳でしっかりと前を向き、大きな口をあけて大声で怒鳴っているようだった。
メロディーは一つとして音符と合致するものはなく、リズムも蕾の中には存在しないかのようで……。
「あは……突然変異でショウか?」
「あほなこと言うな。俺とお前の子だぞ?ありえねぇ……。
それに、生まれながらの音痴なんていないって聞いたことある。
音楽的なセンスというのは、生まれ育った環境で身につくもんだって。
確かにまだ蕾にはピアノとか実際に教えてるわけじゃねーけど、幼い頃から常に良質の音楽を聴いて育ったわけだから……」
「じゃあ何か、聴覚に障害があるとか……」
「いや……なんだかわかんねーけど、これは蕾がわざとやったことのような気がする。
あの表情も、いつもの蕾らしくねーし……。
幼稚園でなんかあったんじゃないのか?先生はなんか言ってなかったのか?」
「実は……終わった後に少し先生とお話をしたのデスが、幼稚園に通いだした頃は、お歌の時間も普通に歌っていたそうで、蕾が、その……こんなに歌が下手だとは気付かなかったそうデス。
ノエルパーティーの合唱の練習が始まってからは、あまり積極的に歌っていなかったので、先生は蕾にどうかしたのか聞いてみたそうなんデスが……蕾ちゃんは「音楽は好きじゃない」って答えたそうで……」
「えっ!?」
「でも、練習の時は、こんなに……今日みたいなひどい歌い方はしてなかったそうデス。今日の蕾ちゃんの歌い方には、先生もとっても驚いてまシタ」
俺は、蕾の破壊的な歌声よりも、"音楽は好きじゃないと"言った言葉のほうがショックだった。
とりあえずしばらく様子をみようという結論になり、俺は蕾のことが気になりつつも、ノエルシーズンの忙しさに日々追われていた。
そんな多忙なスケジュールの中、1日だけ夜には帰宅できる日がとれたので、その日は雅之と征子を呼んで、自宅でノエルパーティーをすることになった。
当日、帰宅した真一を出迎えたのは……。
「よ、先に始めてるぞ?」
「お、親父……そのカッコ……」
「あ、どうだ?蕾が喜ぶからって、嫁に勧められたんだけど……に、似合ってるかな?(照)」
「……」
茶色の全身タイツに赤鼻と角をつけ、トナカイコスをした世界的ピアニスト千秋雅之。
孫を可愛がってくれることは嬉しい。でも……俺の子供の時は帰ってもこなかったくせに……なんか納得できねぇ!
父親のありえないテンションに鬱々としながら部屋の奥へ進むと、今度はミニスカートのサンタコスをした後ろ姿を発見して、真一は一気にテンションが上がる。
キッチンで飲み物でも用意しているのだろうか?
白いぽんぽんのついた帽子がひょこひょこと揺れる様が可愛い。
真一は驚かしてやろうと足音を立てずにそっと背後から近づくと、抱きしめて"ただいま"とささやく。
「お帰り、真一。
後ろから抱きしめてくれたのなんて、何十年ぶり?」
「うわぁぁぁっ!か、母さん……(赤面)」
てっきりのだめかと思って抱きついたミニスカサンタは母親の征子であった。
母さんまでミニスカサンタコスって……(興ざめ)
歳、考えろよっ!
いらつきながらリビングに入ると、やっと真一を出迎えたのだめは……。
「……お前、顔色が緑だぞ……」
「むきゃ?クリスマスツリーコスデスからー。でもこれ、なんだか動きにくくて……座れないし」
円錐形のクリスマスツリーをかたどった、顔の部分をくりぬいた被りモノに、顔はご丁寧に緑色に塗られた新進気鋭のピアニスト、1児の母NODAME。
「俺、十分驚かされたから……もういいだろ?
頼むから着替えて来てくれ……」
「「「ええー!楽しかったのにー!」」」
「いいから着替えてこいっ!」
雅之、征子、のだめの三人は、着替えのために、ぶつぶつと文句をいいながら部屋を出ていった。
驚かされはしたものの、家族で過ごすノエルはそれなりに心温まるものがあり、真一は最近の忙しさをひととき忘れて楽しんだ。
蕾も皆に囲まれて、とても楽しそうなので、真一にはなによりそれが嬉しかった。
ひといきついたところで征子が、
「サンタさんからとは別に、バーバからもプレゼントよ」
と、大きな包み紙を蕾に差し出す。
のだめが手伝って中身を開ける。
中から現れたのは、シンデレラコスセット。(今夜はコスプレ尽くし)
ドレスにティアラ、グローブなどのアクセサリーに、ビニール製ではあるがガラスの靴まで揃っている。
「むきゃー!ありがとデス!征子ちゃん、大好きー!」
大喜びで征子に抱き着く蕾の様子に、雅之が負けてなるものかと立ち上がる。
「蕾、ジージからはピアノを一曲プレゼントするぞ。
この曲は、蕾のためにジージが作曲した曲で……」
雅之が得意げにピアノに向かって歩き出したときだった。
「征子ちゃん!蕾シンデレラ着てみたいデス!
あっちのお部屋行こ!」
蕾は雅之を無視して立ち上がると、征子の手を引き、部屋を出ていこうとする。
「ぎゃぼ!蕾ちゃんだめデスよ?ジージが……」
蕾を咎めようとしたのだめのことを、征子は目配せで止めると、蕾に手を引かれるまま出ていってしまった。
「……」「……」「……」
がっくりと肩を落とす雅之に、真一は慰めるようにグラスにワインをついでやる。
「……俺、なんかやったのか?」
「……かもな」
「……デスね」
三人は言葉もなく、征子と蕾が消えた子供部屋へと視線を送り、大きくため息をついた。
蕾は征子の手を引き、部屋のドアを閉めると、リビングでの出来事などなかったかのように、明るい様子でシンデレラの衣装を身につけていく。
征子はそれを手伝いながら、蕾が話し出すのを根気強く待っていた。
蕾は一通り身につけ、鏡の前でおおはしゃぎでポーズをとっていたが、何も聞かずに見つめる征子にこらえきれずに抱きつく。
「征子ちゃん……」
「なぁに?」
「蕾は大きくなったら……ピアニストにならないといけないの?」
「え?どうしてそう思うの?」
「だって……雅之ジージが……それに幼稚園の先生も、お友達のママも、蕾はパパもママも音楽家だから音楽家になるんでしょ?って……」
征子は蕾の可愛い悩みに微笑みながらも、抱きついていた蕾はがし、その顔を覗き込むと真剣な顔で答える。
「パパもママも、雅之ジージだって、みんなピアニストや指揮者に、自分がなりたかったからなったのよ。
人に決められたり、パパやママがそうだったからなったわけでもないわ。
ほら、蕾ちゃんのママのお父さんとお母さんだって、ピアニストじゃないでしょ?」
「むきゃ?そうデス!」
「蕾ちゃんはね、蕾ちゃんのなりたいものになればいいのよ。
だから、雅之ジージや先生やお友達のママの言うことなんて、気にしなくていいの」
「ほわぉ……」
「蕾ちゃんは、何になりたいの?」
「えと、あのね……」
蕾はその可愛い唇を征子の耳元に寄せると、ないしょ話をするように小さな声でつぶやく。
「まぁ……それは素敵ね!
さぁ、今日は蕾ちゃんはシンデレラだから、どんな願い事だって叶えられるわよ?
みんなのところに言って、そのことをお話しましょう?」
「うんっ!」
シンデレラの格好をした蕾が、ニコニコとリビングに現れた。
そして、雅之の前に立つと、意を決したように宣言をする。
「ジージ!蕾はね、大きくなったらバレリーナになるんデス!
そして、蕾が踊るときは、パパがオーケストラを指揮するのよ!」
「え……」
「蕾ちゃん、バレリーナデスか?」
「蕾がプリマドンナで、俺が指揮……(じーん)」
雅之の落ち込みとは反比例するように、得意げに宣言した蕾の表情は、ひさしぶりに晴れやかだった。
「しかし親父、俺にはピアノの道に進むなって言っといて、今さらなんで蕾にピアニストになれなんて言い出したンだよ?」
「……人間、歳をとると弱気になるんだよ……。
この、千秋雅之の人類の遺産ともいえるピアノを、偉大な財産として受け継ぐ者が必要だ……それには千秋家の血を受け継ぐ者でなければ……」
「……本気で言ってンのか?」
「そうだ真一。この際あと1人、いやっ!二人でも三人でも嫁に子供を産ませろ!
そのうち1人ぐらいは、この俺のピアノを受け継ぐ奴が出てくるはずだから……」
「あほか……」
つくづく父親のバかさ加減に呆れて物もいえない真一は、やけのようにワイングラスを煽る。
「うっ!」
と、突然のだめが口元を押さえ、バスルームに駆け込む。
「お!嫁いいぞっ!早速妊娠か?」
「バカなこと言ってんじゃねー。そんなドラマみたいなこと……。
第一アイツは、蕾のときだってつわりなんてなかったし……。
どうせまた、食いすぎだろ?」
「真一、様子見てきなさいよ……」
征子が心配そうにバスルームへ視線をむけ、様子を伺う。
今、妊娠なんかしたら、またエリーゼに何言われるか……。
大体俺は、避妊も完璧に……してる……よな?
それにアイツの生理だって順調に……
来てねぇ!2ヶ月ほど!!!(またか)
真一が顔色を変えて、バスルームに駆け込む。
「ほえ?パパはどうしたんデスか?」
「もしかしたらサンタさんが、蕾ちゃんが前から欲しがってたもの、ノエルにプレゼントしてくれたのかもよ?」
「むきゃ!蕾のお家にも、可愛い赤ちゃんが来マスか?」
ノエルのプレゼントに、サンタさんが千秋家に新しい家族を届けてくれたのかどうか……それはまた別のお話で。
Joyeux Noel!
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メリークリスマス!
ちょっぴり大きくなった蕾ちゃんのお話をお届けします。
相変わらず、真一&のだめ、雅之&征子の4人が揃うと、真一クンはツッコミが忙しく、賑やかで楽しいですね(笑)
個人的には、のだめクリスマスツリーコスがお気に入りです。
それでは、皆さまにもサンタさんから素敵なプレゼントが届きますように。
素敵なクリスマスを。
2010.12.24 香水
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