芒果布甸/Mango pudding



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 ピアノルームの灰皿には山盛りの吸殻。


 真一は勉強に没頭して、昼食もろくに食べていないようだ。


 のだめと蕾が帰宅したことにも、声をかけるまで気づかなかった。


 パリ生まれで、パリで指揮者としてのキャリアをスタートさせた真一にとって、国立のオケでピンチヒッターといえどもタクトを振れるというのは、きっと夢のような出来事なのであろう。


 のだめはそんな真一の気持ちが痛いほどよくわかり、精一杯応援してあげようと思う半面、昼間ニナから聞いた事を思い出しては、胸騒ぎがした。


 「何もないといいのデスが……」






 La Vie en Rose 後編






 リハまでの1週間、のだめは蕾を連れてニナ邸に通った。


 蕾をニナに任せてピアノの練習もさせてもらう。


 蕾がお昼寝の時間は、ニナがのだめのピアノをレッスンしてくれる。


 ニナ邸での1週間で、蕾はすっかり母親と父親以外の人に面倒をみてもらうことにも慣れてくれたようだ。


 「そうそう、いいベビーシッターさんを紹介してもらえたわよ。
 来週、お試しで一日、預けてみたら?ノダメだってたまには息抜きが必要よ」


 「そうデスね。蕾ちゃんとの相性なんかも気になるし。さっそくお願いしてもいいですか?」








 真一は1週間みっちり楽曲の勉強をして、準備万端でリハの初日を迎えた。


 初めての国立オケ。
 まだリハの段階だが、久しぶりに緊張する。


 今までだって、客演で初めてのオケとやることは何度もあったが、今回のようなメジャーのちゃんとした演奏会は初めて。


 しかもパリでとなると、相手は自分がマルレの常任であることも知っているはずで、演奏を聞かれたこともあるかもしれないし、演奏会仲間から噂話など聞いているかもしれない。


 気合いが入っている分、真一はいろいろなことを考えナーバスになっていた。


 「千秋真一です。今回は皆さんとご一緒することができ、大変光栄です。

 急なピンチヒッターということで時間もありませんので、挨拶の代わりに指揮を」









 オケの演奏は素晴らしかった。


 もちろん、最近のマルレだって格段によくなっているとは思うが、こちらはプレイヤー一人一人の技術が高く、なおかつオケに纏まりがある。


 ここでなら1週間勉強して思い描いてきた演奏が実現できそうである。


 真一は久しぶりに身震いするほどの感動にであえるかもしれないと期待に胸を膨らませた。


 「すいません、ここはもう少しテンポ早めで、前へ前へ、出していく感じでお願いします……」


 真一は先ほどから自分の指揮とオケの演奏にほんの少しずれを感じ、違和感を覚えていた。


 指示を出せば黙って聞いているようだが、なにやらオケメンバーはコンマスのほうをちらちらとうかがいながら、真一とはなかなか視線を合わせてくれない。


 真一は思い切って、コンマスに視線を合わせて指示を出してみる。


 「すいません、ヴァイオリン、ここは少し硬く、つぶを出す感じで、メリハリをつけてください」


 演奏が止まる。


 そして初めてコンマスの口が開いた。


 「いいんだよ、このままで。ヴァイオリンのことは俺が指示する。
 それから、練習番号30は、ちょっとやりすぎだ。

 ホレ、さっさと振る!」


 なにぃ#


 「……それでは、練習番号30から コンマスの言うとおり "適当に"
 しかしもっとテンポ感を出して」


 コンマスの顔がひきつる。


 真一も、国立のオケに突然やって来て、簡単に従ってもらえるとは思っていなかったが、自分にとってこれはチャンスである。
 悔いが残らないよう、納得いく演奏にしたい。


 コンマスにプレッシャーをかけられて、おいそれと尻尾をまくわけにはいかなかった。


 リハが終わり、疲労困憊で帰り支度をしていると、コンマスが背後を通りしな真一に呟く。


 「勉強不足だな。特にラヴェル。
 所詮、日本人の若造にできる曲じゃないだろ」









 疲れきって帰宅すると、いつも通りの妻と、いつもより元気にはしゃいでる様子の愛娘に迎えられる。


 蕾は4ヶ月近くなって、あやすと笑うようになってきて、「あーあー」や「んまっんまっ」などの意味はないものの何とも可愛い声を上げるようになってきたのだ。


 緊張のリハ、コンマスとの応酬での疲れが、一気に癒された気がする。


 「どうした?蕾はやけにご機嫌だな」


 「今日、初めてシッターさんに預かってもらったのデスが、とってもお上手な方で、蕾ちゃんはとっても楽しんだみたいデス!」


 「そっか、よかったな。契約するのか?」


 「はい、とりあえず今週末、真一クンの演奏会に預かってもらって、問題なければお願いしようと思ってマス」


 「……そっか」


 「真一クン、どうかしまシタ?」


 「いや……なんでもない」


 そう答えると、真一は食欲がないから、このまま勉強する、先に眠るようにと言い残し、ピアノルームにこもってしまった。









 蕾ちゃんの様子がなんだか変デス。


 真一クンの代わりにのだめがおぶちゃんに入れたのデスが、いつもはぬるま湯で温まると、そのままうとうとして、おっぱいをあげて、そのまま夜中まで寝てくれて、それも最近では朝まで寝てくれることも多くなってきたのに……。

 今日はおぶちゃんでも超ご機嫌で、お風呂に入れて、おっぱいを上げても、寝てくれそうにありまセン。


 シッターさんに1日中遊んでもらって、初めての経験をたくさんしたから、興奮しちゃってるんでショウか……。


 もう、こうなったら根競べデス。蕾ちゃんが疲れて眠るまで、今日はおもいっきり遊んじゃいまショウ!









 ちくしょう、あのコンマス……。


 今日のリハを思い出すたび、腹が立つ。


 しかし、コンマスの指摘したラヴェルについては、真一自身、まだ自分の中で消化しきれていないところもあり、そこがまた真一のいらつきを増す原因にもなっている。


 ラヴェルの「ラ・ヴァルス」
 ヨハン・シュトラウス2世へのオマージュとして構想された、ワルツをモチーフにした美しいバレエ音楽。


 華やかな舞踏会で若く美しい男女が、人々の羨望を浴びて優雅にワルツを踊るかのような、ロマンチックなシーンが浮かびあがる。


 シャンデリアがキラキラと輝き、美しく若い乙女が色鮮やかなドレスで溢れかえる宮廷。ところどころで流れるハープが、華やかさを演出する。


 確かに俺のイメージじゃねーか……。


 ピアノルームにこもりきりで鬱々と悩む真一。それにシンクロするように、リビングでは蕾がぐずって泣き始めた。









 興奮して、なかなか寝付かない蕾であったが、のだめが開き直って付き合ったおかげもあって、だいぶ夜も更けてからではあったが、やっと蕾はうとうとし始める。


 いくら本人が元気だからといって、あまり夜遅くまで起こしているのも心配になってきたところだったので、のだめはホッと一安心して、蕾を眠らせてしまおうと、疲れてはいたが自分の腕に抱っこしたまま、リビングを子守唄をうたいながら静かに歩きまわる。


 ところが、蕾はうとうととしていたかと思うと、眠気に抵抗するかのように可愛い瞼をおしあげ、なんとか目覚めようとする。

 しかし眠気には勝てず、また上瞼と下瞼がくっつきそうになる。起きていたい、でも眠い……、そのフラストレーションにより、やがて蕾はぐずぐずとぐずり始めてしまう。


 しばらくは腕に抱いたままあやしていたのだめであったが、だんだんと腕の感覚も薄らいでゆき、このままでは蕾を落としてしまうかもと思い、いったんソファーに腰をかけ、伝家の宝刀、小玉スイカカップのおっぱいを蕾にふくませようとした。


 いったんは、小玉スイカパワーに屈したかに思えた蕾であったが、今日の蕾は一筋縄ではいかないようで、ぷいっとのだめの乳首を吐き出すと、またぐずりだす。


 「蕾ちゃぁん……、お願いデスから、もう諦めてママと一緒にねんねしまショウ?
 また明日、遊んであげマスから……」


 のだめのそんなイラつきが伝わったのか、心地よい揺れもとまってしまい、視線の先にはのだめの胸元しか見えない面白みのない状況に、蕾は火がついたように号泣しはじめてしまった。









 真一は、ピアノルームで、鬱々と総譜と格闘しながら、自分の敏感な耳が聞き取ってしまう蕾のぐずり声にいらいらを募らせていた。


 もう、小一時間はその状態が続いている。このようなことは、初めてである。


 それでも、今自分がやらなければならないのは、このラヴェルの優雅で美しいワルツの世界をオーケストラで奏でるために、その世界を追求すること……。


 聞こえないふりをすること1時間強。とつぜん、耳を裂くような号泣が聞こえてきた。

 聞こえないふりをしているのも、限界であった。









 「おい……、どうしたんだ?なにやってるんだよ……」


 「あ、真一クン……。お勉強の邪魔でシタか?

 なんだか蕾ちゃんが、今日は初めての経験が多かったから、興奮しちゃったみたいで、眠れないみたいなんデス。

 ごめんなサイ。もうちょっとで寝てくれると思いますカラ……」


 「そんな風にソファーに座り込んでたって、蕾が泣き止むわけないだろ?

 だいたい、そんな興奮して夜も眠れなくするなんて、シッターもろくなもんじゃねーな……」


 「……」


 「お前ももう、母親になって4ヶ月近くたつんだから、娘がこんな状態になるまで、なんとかできなかったのかよ?

 ……俺だっていろいろあって疲れてんだよ……、頼むよ……」


 真一は、そういい捨てると、のだめのことも蕾のことも顧みることなく、再びピアノルームにこもるのであった。









 結局、真一は朝方まで夢中で総譜と格闘し、気が付くとデスクに突っ伏して眠ってしまっていた。


 今日も午後からリハがある。一度、シャワーを浴びて何か腹に入れよう。


 寝不足の頭を振り、だらだらとリビングに向かう。


 「……おい、のだめ?いないのか?」


 リビングには、のだめの姿も、もちろん愛しい我が子の姿もなく、ベッドルームも覗いてみるがもぬけの殻。


 真一は、昨夜のことを思い出し、自分に気をきかせて、またニナのところにでも行っているのだろうと、大して気にもせず、シャワーを浴びる。


 簡単に食事をとろうと向かったキッチンで、真一は驚きの声を上げる。


 「う、うわっ!これなんだっ!」









 キッチンのテーブルには、新聞や雑誌の活字を切り取って、文章にした手紙が一枚。


 「ゆ、誘拐……」


 寝不足でまわらない頭に浮かぶのは、"活字を切り取った手紙"→"誘拐犯からの脅迫状"→"可愛い一人娘"→"蕾が誘拐!"というありえない展開。


 「け、警察に助けを求めなければ……、いや待て!だいたい誘拐犯は警察に届けると、娘を殺すとかいって脅すんじゃ……、こ、殺す……」


 白目をむいて、今にも倒れそうな真一は、とりあえず犯人の要求を確認しようと、手紙を手に取る。


 「ん……?」


 "Au revoir desu(さよならデス)"


 「さよなら……desu?そんなフランス語、しらねぇ……(フランス語じゃないし)」


 真一はパニックになりながら、自分の操ることのできる5ヶ国語に、必死で"desu"という単語をあてはめ、検索してみる。


 「desu  desu  desu……、デス?」


 唯一ヒットした単語は第一母国語の日本語である"デス"


 「はっ!のだめっ!」


 真一は、手紙をひっつかみ、クローゼットから手当たり次第に身につけていくと、慌ててアパルトマンを飛び出すのであった。









 真一は迷わずニナ邸にやってきた。


 今ののだめが逃げ込む場所といったらここ以外は考えられない。


 「あら真一?いらっしゃい……」


 「のだめ、来てますよね?」


 そういうと、家主に勧められないうちから上がり込もうとする。


 「ちょっと待ちなさい。誰が上がっていいって言いました?」


 細いが日ごろから鍛えられているニナの力強い腕力によって、真一はがっちりと肩を掴まれ、それ以上進むことができない。


 「ニナ、頼むよ。のだめに会わせてくれ」


 「だめよ。
 それにあなた、今日もリハがあるんじゃないの?時間大丈夫なの?」


 真一は左腕のクロノグラフを確認する。


 「やべぇ……」


 「遅刻なんてしたら、あのコンマスに何言われるかわからないわよ?」


 「……リハ終わったらまた来ます。
 のだめに……いや、二人をお願いします」


 真一はそう言い残すと、リハ会場に急いで向かった。









 リハは最悪だった。


 音は鳴っているが自分の思い描く世界が奏でられない。


 コンマスとは一度も目が合うことなく、真一は逃げるように練習場を後にする。


 まっすぐニナの家に向かう。


 驚いたことに、呼び鈴に出てきたのは雅之だった。


 「お、親父……、こんなところで何やってんだよ……」


 「お前こそ、大事な演奏会前に何やってんだ?」


 「……」


 雅之は黙り込んだ真一の様子に小さくため息をつくと、ちょっと外に出ないかと誘う。


 真一は黙ってうなづくと、雅之の後をとぼとぼとついていくのであった。









 パブに入り、ビールを二つ注文すると、雅之は真一の神妙な顔を覗き込み、ふきだした。


 「……笑うな」


 「ごめん。
 しかしあの嫁、怒ると怖いな。ぎゃーぎゃーわめくのかと思ったら、ずっとだんまりだったぞ?」


 「本気で怒ると、口きいてくれねーんだよ……」


 「反面教師にしろっていっただろ?」


 「……」


 「どうせ嫁に、なんにも話さねーんだろ。
 溜め込んで当たり散らすくらいだったら、愚痴のひとつもこぼせよ。せっかく同業者なんだから」


 「……今度からそうする」


 「まあな、あのコンマスは嫌な奴だ。
 俺も共演したとき、散々やりあったからな」


 「え?」


 「あ……もしかして、あの時のこと恨んでて、それで息子のお前に仕返ししてんのか?」


 「はぁ……親父のせいかよ……。なにやったんだよ……」


 ニナ邸に戻る途中、真一は雅之から提案された。


 「今日は蕾を俺が預かってやるから、ちゃんと嫁と仲直りしておけ。そうしないと、あのコンマスにも勝てねーぞ?」








 ニナの家で、ふくれのだめ状態のアイツに、やっと会わせてもらう。


 ニナと雅之は気をきかせて、蕾をつれて別室にいるので、二人っきり。


 といっても、のだめは相変わらず俺のことを完全無視してるが。


 「のだめ……、昨日はごめん。
 俺、お前の話も全然聞かねーで、蕾の心配もせずに、文句ばっか言ってた。

 自分がいらついてるからって、当たり散らして……かっこわるいよな。すげー自己嫌悪だし。

 あんなこと全然思ってねーから。怒ったままでいいから帰ってきてくれよ……。

 いま、俺の前に立ちはだかる壁があって……。

 そのうえお前までいなくなったら、どうやって立ち向かえばいいか、わかんねーよ……」


 いままで、真一がこんなふうに仕事のことで、素直に弱音を吐いて、助けを求めたことがあっただろうか。


 のだめは驚きと同時に、そんな風に自分を求めてくれることが素直にうれしいと思った。


 「……呪文料理デスよ」


 「うん」


 「……マンゴープリンも?」


 「もちろん」


 「シャンプーとトリートメントに、ドライヤーでブローもお願いしマスね?」


 「よろこんで……」


 真一はのだめに許された喜びに、のだめをしっかりと抱きしめる。


 「し、真一クン、ここニナの家デスよ?」


 「うん、わかってる……、ちょっとだけ……」









 蕾が生まれる前、ふたりでよくそうしていたように、のだめと真一は手をつないでニナ邸から自宅まで歩いて帰った。


 「最近、手つないで歩いてなんてなかったな?」


 「蕾ちゃんがいまシタから……。子供が生まれるって、こういうことなんデスね……」


 「そうだな……、これからは蕾を預けて、たまには二人っきりの時間もつくらないとな」


 久しぶりの真一の呪文料理に舌鼓をうち、食後ふたりはリビングのピアノで音遊びを始める。


 Sオケでやった曲、学園祭のラフマニノフ、R☆S時代、指揮コン、マルレ、そしてモーツアルト……。


 思い出の曲をぽろぽろと弾いては、思い出話をする。


 「ところで、今、真一クンの前に立ちはだかる壁って、どんな曲デスか?」


 真一はピアノで旋律を奏でながら呟く。


 「ラヴェルの"ラ・ヴァルス"
 俺のイメージじゃないだろ?」


 「ほわぉ……ワルツデスね?素敵な曲デスよね……。
 マリー・アントワネット全盛期の舞踏会のイメージデス……」


 「ま、まぁ間違ってねーと思うけど……」


 「真一クンって、酔っ払った時しかワルツ踊ってくれまセンよね?
 のだめ……いつも振り回されて、わけわかんないまま終わっちゃって……。

 そだ、真一クン、のだめにワルツ教えてくだサイ!」









 「じゃあ、クローズド・ポジション、やってみるか」


 真一の左手がのだめの右手をとる。


 真一はのだめを自分の胸に引き寄せ、背中に手を添える。


 「ほら?お前も俺の肩に手をおいて?」


 のだめは至近距離からの優しい真一の微笑みに、クラクラとめまいがしそうだ。


 「真一クン……素敵デス」


 「……そりゃどうも。じゃ、始めるぞ?」









 「右、左、閉じる、左、右、閉じる……
 膝を柔かく、ダウンダウンアップ、ダウンダウンアップ、そうそう上手い上手い。
 ターンするぞ、ほらっ」


 「ぎゃぼっ!」


 「……奇声やめろ。マリー・アントワネットになったと思え」


 「ふぁい……」


 「じゃあ、音楽かけて踊ってみるか。

 音楽を感じて、楽しく踊ればいいから」


 真一が、プレーヤーにレコードをセットする。


 ブツブツブツ……。


 流れてきたのはヨハン・シュトラウス2世「朝の新聞」


 この変わった曲名は、ウィーンのジャーナリスト協会が主催する舞踏会のために作られたから。


 軽やかで朗らかな、希望に満ちた新しい一日のはじまりを予感させるような楽しいワルツ。


 最初は、真一のステップについていくのが精一杯だったのだめも、ステップのことなど忘れ、ただただ真一の軽やかなリードに合わせて踊りだす。


 「むっきゃぁぁぁぁーーー!ダンス、最高デス!」


 「奇声やめろって……」









 "真一クンにワルツ、ぴったりじゃないデスか。
 自信もって、頑張ってくだサイ?のだめ、楽しみにしてマスから……"


 のだめの言葉を脳内に響かせて、手強いリハ(コンマス)に立ち向かう。


 「それでは、練習番号30から。コンマスの言ったように、やりすぎないで。
 軽やかに、優雅に、美しいワルツを」


 昨日までとはうって変わった、真一の穏やかで自信に満ちた表情。


 振り下ろされるタクトも、まるでダンスを踊っているかのようで。


 コンマスが真一のタクトを見つめる。


 それを合図に、オケが一体となって、優雅で美しいワルツを奏で始めた。









 "Bravo!"


 シャンゼリゼ劇場が、大歓声に包まれた。


 まだ30歳のパリ生まれの日本人、ルー・マルレ・オーケストラの常任指揮者千秋真一は、指揮台から降り、コンマスと熱い握手を交わす。


 「とてもよかった。
 それに……、お前は父親と違って、人間性に問題はないようだしな。
 また機会があったら是非」


 「あ、ありがとうございました……」


 お、親父、一体コンマスに何したんだよ……。
 俺、これからもこんな目に遭うんじゃねーだろーな……。


 真一は、心地よい達成感を感じるとともに、これからの音楽家人生に一抹の不安を覚えるのであった。



--------Fin---


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 リク祭★第六弾はぴよサマよりリクエストのSSです。

 リク内容は「夜想曲の続きで、夜泣きが激しい子どもとなかなか泣き止ませられないのだめに千秋があたってしまい、のだめが子どもを連れてニナ宅に家出。そこにたまたまいた千秋雅之とニナにかくまってもらうのだめと、焦って狼狽える千秋をお願いします!あとは適当に話を膨らませて頂けたら嬉しいです。」との事でした。

 育児って……(遠い目)
 最近は昨日の夕食だって思い出せないっていうのに(笑)
 いきなり育児話書くのは無理ってことで、妊娠、出産……と、順を追って書くことで記憶のリハビリ(?)をするため、ぴよサマには大変お待たせしてしまいました。ごめんなさい。

 今回はほぼ、リクエスト内容に忠実にお答えできたかなーと、ほっとしております。

 また、「芸術家の生涯」ではあまり書けなかった、真一クンのソシアルダンスシーンもまた書くことができて嬉しい♪

 ダンスの世界はジャンルに限らず大好きなので、真一クンみたいないい男にリードされて踊るのだめが、激しく羨ましいです。

 それでは、読者の中にもいらっしゃる育児真っ盛りの頑張ってるママに、日ごろのお疲れサマと応援のエールを込めて献上いたします。


 今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。


 2010.10.19 香水


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★ラヴェルのラ・ヴァルス
この曲、大好きです!まさにフランス国立管弦楽団の演奏する、バーンスタイン指揮の動画がありましたので是非。
マエストロの燕尾もとっても素敵。銀髪にあわせたようなタイも素敵。
団員の皆さんもやはりパリだからでしょうか、モダンで素敵デス。
そしてなんといっても音楽が素敵♪Bravo!