芒果布甸/Mango pudding



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 「のだめ、ケーキが食べたいデス!」


 「うん……」


 「スポンジは卵タップリのしっかりとした重めのやつで、生クリームも動物脂肪タップリの濃厚なやつで、苺は大きくて甘酸っぱい日本のじゃなきゃやデス!」


 「はいはい……」


 「"はい"は1回でいいんデス!」


 「……はい……」


 女は出産すると変わるという。


 そして、のだめは出産して蕾が2歳を過ぎたころから変化をみせた。


 変わったのは、俺に腹を立てたときの反応。


 今までは、ふくれて俺を完全シカトする怒り方だったが、家族が増え、のだめが俺と口をきかなくなっても蕾が相手をしてくれるようになってから、あまり効果が期待できないと考え直したようだ。


 それからは、のだめは俺に腹を立てると、まるでだだをこねる子供のような反応をするようになった。


 例えば今は、パリでは手に入れるのが難しそうなデザートを注文する。


 要するに、俺を困らせて参ったと謝らせたいのだ。


 でも、今回のことでのだめが俺に腹を立てるのは間違ってる。
 俺だって被害者なんだよ……。





 TRESOR






 ある日、エリーゼから俺たち夫婦に雑誌の取材が入ったと連絡があった。


 その雑誌とは、フランスのモード雑誌"Numero"。


 20代から40代までの知的で自立した女性をターゲットにしており、ファッションのほかにも音楽、建築、映画などのアート全般の最先端を紹介するアバンギャルドな雑誌。


 クラシックの音楽家、しかも日本人夫婦の俺たちになぜ?とは思わなくもなかったが、のだめはそんなお洒落な雑誌に夫婦で取材されるというだけで舞い上がり、大喜びだったため、俺にしてもわざわざ水を差すようなことを言ってのだめのご機嫌を損ねるようなことはしたくないので、黙って取材を受けることにしたのだが……。








 呼び出されたのは撮影のためのスタジオ。


 エディターのほかに、カメラマン、スタイリスト、メイクアップアーティストなどがひしめきあうスタジオに、のだめは興奮を隠せない。


 「むっきゃぁーーーっ!真一クン、これがパリのモードの最先端が生まれる場所デスよっ!」


 「あ、ああ……」


 本当は蕾も含めたファミリーでの撮影を求められたのだが、それについては俺がNGを出した。


 「どしてデスか?」


 のだめは蕾にもおめかしをさせて、家族の記念撮影といったつもりで大喜びだったが、まだこの先どうなるのかもわからない蕾をマスコミに公開するつもりはないときっぱりと伝える。


 「のだめ、これは記念写真じゃねーんだ。
 雑誌になって、8万部も発行されるんだぞ?
 せめて蕾が自分で判断できる年になるまではダメだ。いいな?」


 「はい……。わかりました」









 夫婦でのツーショット撮影をする。


 シーズン最新流行のシックなファッションを身につけ、のだめは超ご機嫌だ。


 「はぅん……、真一クンはやっぱり世界でいちばん素敵な夫デス。
 のだめ、またフォーリンラブデスよ?」


 「そりゃどーも」


 その後、二人揃って夫婦としての日常生活や家族のことなど、女性たちがいかにも興味を持ちそうなありがちな質問を受ける。


 「家事はやっぱり二人でされるのかしら?」


 「いいえー!夫は料理、洗濯、掃除、何をとっても完璧なんデス!
 だからのだめは夫の完璧な仕事を邪魔しないように、手出しはしないことにしてるんデス」


 「まぁぁ……、100%ご主人がされるの?それはフランスでもあんまりない夫婦像ね。これは革新的だわっ!
 お二人のインタビューの肝はこれにさせていただくわっ!」


 「いや、あの、その、それはちょっと……」


 「ほんと、ノダメサンが羨ましいわぁー!
 美しくて、才能があって、家事まで完璧にこなす夫。
 そうね!フランスのこれからの理想の夫像だわっ!」


 「エディターサンっ!」


 「ノダメサンっ!」


 「はぁぁぁ……」


 ふたりは大興奮で、手に手をとって盛り上がっていた。









 その後、二人それぞれ1人ずつのショットを撮影したいということになり、スタジオを出ることになる。


 「あのぉ……、撮影はこれで終わりじゃないんですか?」


 「お二人それぞれ、音楽家としてのイメージショットを撮影させていただきたいんです。
 NODAMEさんはコンセルヴァトワール、チアキさんはマルレのブラン劇場で撮影させていただくつもりで、許可も取ってありますのよ?」


 「そ、そんなに?」


 「ええ、今回の特集はお二人ですから」


 「えええっ!」

 「あら?ご存知なかったかしら?
 うちの雑誌は、毎号1つのテーマで特集をする形をとっていて、今回はNODAMEさんとチアキさんがテーマなんです」


 「き、聞いてません……」


 「まぁ、撮影も取材も今日一日で終わりますから、ご安心ください?」


 「はぁぁぁ……」









 長い撮影が終わった。


 疲れきって自宅に戻れば、のだめは先に帰宅していて、シッターを先ほど帰したところだという。


 「真一クン、おかえりなサイっ!
 のだめ、久しぶりにコンセルヴァトワールに行って、いろんなところで撮影して、すごく楽しかったデス!」


 「そ、そっか……」


 「コンセプトとしては、コンヴァトの近代的な建築物と対照的な、クラシックをイメージしたネオロマネスクファッションを身に纏ったNODAMEってことで、のだめ、マリーアントワネットみたいな衣装、たくさん身につけたんデスよー!すんごく楽しかったデス!」


 「そ、それはよかったな……」


 「真一クンは?どんな衣装で撮影したんデスか?」


 「お、俺?俺はあれだ、燕尾だよ燕尾……」


 「えぇー?!そりゃ真一クンの燕尾は素敵デスけど、それじゃあいつもと一緒じゃないデスか?
 なんだかつまんないデス……」


 のだめは少しがっかりしたようだったが、それでもご機嫌で蕾のもとに戻ると、一緒に遊びだした。


 「雑誌の出るのが楽しみデス!
 いつなんですかね?」


 俺は、食事の準備のためにキッチンに向かい、このまま雑誌のことなんかなかったことになって欲しいと祈りながら、大きくため息をついた。









 忘れたころに、衝撃はやってくる。


 「ただいま……」


 マルレのリハから疲れて帰ってきて俺を玄関で迎えたのは、仁王立ちで頬をシマリスのようにぱんぱんに膨らませたのだめだった。


 「お、おい……どうした?」


 ぱしっ!


 のだめは腰にあてた右手に持っていた雑誌を玄関先に叩きつけ、ぷいっと俺に背を向けると、ずかずかとリビングに戻っていく。


 「え?……はぁぁぁ……」


 俺は、玄関先に放置された雑誌の表紙を見つめ、大きくため息をつく。


 それは数ヶ月前に二人で取材をうけた雑誌"Numero"


 その表紙には、ブラン劇場の舞台で燕尾を着くずし、タクトを手に立つ俺の周りを、ボンテージファッションを身に纏った美しいモデルたちが、ヴァイオリンやフルートなどの楽器を手にし、取り囲む写真。


 俺の背後にたち、首に手を絡めるモデルあり、足元に横たわり、その腕を俺の脚に這わせるモデルあり……。


 「なんでこれが表紙……(白目)」


 表紙には「美しくセクシーで、完璧な夫。才能溢れるパリのルー・マルレ・オーケストラの指揮者シンイチ・チアキと、その妻ピアニストNODAMEの、革新的で音楽と愛に溢れた夫婦生活」とのタイトルが踊る。


 のだめがふくれるのも仕方ないと思う。
 でも、俺だって、こんな恥ずかしい写真がパリ中の書店に並ぶと思うと、明日からどんな顔でパリを歩けばいいのか……。
 てゆーか、団員からどんなからかいをうけるのか……。









 ふくれたのだめは、あれが食べたい、これがしたいと竹取物語のかぐや姫のように、俺に無理難題をふっかける。


 「なぁ、のだめ。
 一応聞くけど、雑誌の中身は見たのか?」


 「雑誌ってなんのことデスか?
 のだめ、フランスのモード雑誌なんて興味ないデスよっ!」


 「はぁ……言ってることが数ヶ月前と全然違うじゃねーか……」


 俺は表紙や、その中の同様の写真にはあまり目を向けないように雑誌を注意深くめくり、あるページを見つけると、そこを広げてのだめに差し出す。


 「ここを読め」


 俺はぶっきらぼうに、のだめに雑誌の開いたページを読むように押し付けると、のだめのご機嫌を少しでもよくするために、スイーツ作りにキッチンへと向かう。


 のだめは、しぶしぶページを読み出したようだ。


 一瞬の間のあと、リビングから奇声が聞こえ、どたどたとキッチンに走り込んできて、背中にいつものような衝撃を受ける。


 「真一クンっ!」


 「痛てーよ!あぶねーだろーが……」


 「のだめ、フランス語の読み書きがまだ上手にできないんデス……。
 ここ、読んでみてくだサイ?」


 「……嘘つけ。絶対に読まない」


 「……けち……」


 「はぁぁ……考えてもみろ?
 これが、パリ中の書店に並んで、いろんな奴が読むんだぞ?
 少しは俺の気持ちを考えろ……」


 「ふぉぉぉーーーっ!
 真一クン、"パリの中心でのだめへの愛を叫ぶ"的な?」


 「はぁぁぁ……」


 「愛してマスっ!」


 「……知ってる……」


 真一が、のだめに読めといったページには、真一が1人でインタビューに答えた記事が掲載されていた。


 インタビュアーの"あなたにとってのTresor(宝物)は?"の質問に真一が返した答えは……


 "音楽、友人、家族……。

 そして私にとって一番の宝物は、妻と妻のピアノです"




--------END---


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 リク祭★第八弾は、まぽサマリクエストのSSです。
 リク内容は「「TRESOR」には宝物といった意味があるようで2人にとっての宝物は何かというお話を雑誌のインタビューを受けるという内容になります。 インタビューを受けるのはクラシックライフといったクラシックの専門雑誌ではなく普通の雑誌で子供が生まれた後に2人そろって取材をうける仕立てとなります。 こちらも甘いお話でお願いできればと思います」とのものでした。

 毎度、リク通りにはいきませんね(笑)
 たぶん、まぽサマが思い描いているのは、もっと二人がラブラブで、しかも蕾ちゃんが生まれて幸せいっぱい的な、甘い甘ーーい内容なのだと思うのですが……。
 ごめんなさい、それでは香水的に物足りないというか(爆)
 やっぱり真一クン、いじりたいんです、ごめんなさい……。

 タイトルと雑誌取材、二人にとっての宝物といった最低限のお題はクリアしたということで、お赦しください。

 あ、のだめサンの宝物については書かれてませんけど、皆さん、ご存知ですよね?(笑)

 それでは日ごろのご愛顧に感謝し、当サイトの読者の皆さまに献上いたします。
 読者の皆さまは香水にとって、宝物ですよ?


 2010.11.13 香水

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