「アロー!千秋先輩、これから遊びに行ってもいいデスか?」
休日の昼下がり。
のだめからめずらしく電話が入った。
雑用を終わらせたら、こっちから連絡しようと思っていたところだったので、二つ返事でOKして部屋で待つ。
「ゲハ、来ちゃいまシタ」
外は相当寒そうだ。
ほっぺと鼻のあたまを真っ赤にした、のだめが飛び込んできた。
俺様の仰せのままに
「今日はお土産があるんデスよー」
ナプキンに包まれた土産とやらをテーブルに置き、なにが嬉しいんだか、きらきらした瞳でのだめが俺を見つめる。
「わーなんだろ、すげー楽しみ(棒読み)」
「棒読みするのやめてくだサイ……」
しかし、そんな俺のつれない様子にもめげずに、のだめはテンション高めでナプキンの包みを解いた。
「じゃぁーーーんっ!」
「お、美味そうじゃん……」
紙製の王冠が載せられた、ガレット・デ・ロワ。
こんがりと、良い色に焼き上げられたパイ。
「そんなのどうしたんだよ?」
「フランクのママにおねだりして、二人用を作ってもらったんデス、ゲハ」
「また、面倒なお願いを……」
「でも、フランクのママは30人用の大きいのを焼くから、ついでだって言ってまシタよ?」
「30人用……それはすごいな」
キリスト生誕の12月25日から12日目、エピファニーのお祭は1月6日だけど、フランス人たちはそんなことにはあまりこだわらずに、1月中はこのケーキを食べているようだ。
ケーキの中に入ったフェーヴと呼ばれる小さな陶器の人形。
食べたケーキにフェーヴの入っていた者が王様もしくは王妃となり、好きな相手を王妃もしくは王様として選んでキスをする風習。
「さ、食べまショウ!」
「二人で食うのかよ……」
まったく意味がないような気がするが……。
まぁ、コイツの行動が意味不明なのはいつものことだし、付き合わないでフクれられてもあとが面倒だからな……。
「王様だーれだっ!」
「おい……それゲーム違いだろ……」
のだめは俺にお茶を入れさせると、皿とフォークを意気揚々と並べて、早く早くと俺を急かせた。
何事かと思えば……こんな展開かよ。
「だってぇ……のだめと先輩の二人しかいないんだから、普通にやったらつまらないじゃないデスか!
なので、フェーヴの入ってたほうが王様で、入ってなかったほうが今日1日は王様の言いなりになるっていうのはどうデスか?」
「……」
言いなり……。
外したら、とんでもなく恐ろしいことになりそうな気もするが、"一日俺の言いなりになるのだめ"っていうのも、すごく惹かれる気がする……。
「……もうっ、先輩のむっつり……」
「なっ!何も言ってねーだろっ!」
「言わないからむっつりなんじゃないデスか……」
直径15センチほどの小さめのガレット・デ・ロワを、二人でぎゃーぎゃー言いながら半分にする。
じゃんけんをして、勝ったほうが好きなほうを選ぶことに。
「よしっ!」
「ぎゃぼっ!」
久しぶりにのだめにじゃんけんで勝った気がする。
なんだか気合が入っているようで、ちょっと癪だけど……。
しかし、選択権を得たからといって、フェーヴの入ったほうが選べるとは限らないと気付いたのは今さらだが……。
「……」
俺が慎重に慎重をきたして時間をかけて選んでいると、のだめがぽつりと呟く。
「……先輩……怖いデス……」
「……う、うるせーな!」
「のだめは先輩が好きだから、どんな命令でも聞きマスよ?
でも……あんまり痛くしないでくだサイね?」
「なんの話だ……」
のだめがあんまり煩いから、結局いきおいで目をつぶって選んでしまった。
「ふぅぅ……やっと食べられマスね」
「……待たせて悪かったなっ!」
「ぎゃはぁ!のだめが王様デスー!」
「はぁぁ……」
結局こういうオチかよ……。
まぁそんな気はしていたんだが……。
それに自分が王様になったとしても、ただでさえ俺の言いなりの奴を言いなりにさせたからって、面白くもねーし(強がり)
のだめは紙製の王冠をかぶって、スキップなんかしてご機嫌だ。
「むきゃ!千秋先輩、覚悟してくだサイね?」
どんなことをやらされるのかと思えば、のだめの"言いつけ"は意外に普通だった。
ショッピングに行きたいと言われ、バッグだの、靴だの、下着だの、あちこちの店に連れまわされ、気に入ったものを見つけるとおねだりされる。
購入させられた荷物を持たされ、おもちゃ屋でごろ太関連を見るのに長時間付き合って、挙句におねだりされて。
コミックショップにもつき合わされ、前からほしかったというコミックを大人買いさせられ……。
両手いっぱいの荷物を持たされ、へとへとになって帰宅した。
確かに、こんなにアイツのために一気に散財させられるのは初めてだが、今までだって結構……おねだりされて買ってやることはあるし、もっととんでもないことをさせられるのかと思っていた俺は、ちょっと肩透かしを食らった。
いつものように夕飯を作ってやるが、特に注文をされることもなく、肉が食べたいといわれただけ。
ほんと、拍子抜けだ。
のだめはご機嫌で、めずらしくワインを多めに飲み、酔っ払った。
「今日は泊まっていきマス!」
「……あっそ」
「お風呂入りマス!」
「はいはい……」
「久しぶりに、先輩に髪の毛を洗ってもらいマス!」
「……あっそ」
コイツ……結構、酔っ払ってる?
準備のためバスルームに向かおうと、ソファから立ち上がった俺に抱きつき、"連れて行ってくだサイ"と甘えてきた。
「……それって、誘ってンの?」
「……王様の命令デス!」
「……あっそ」
アルコールで柔かく、暖かいのだめの身体を抱き上げ、バスルームへ。
服を脱がせろとか……命令だって言うけど……お前……。
まあいっか。
ご機嫌で、ふにゃりと微笑みながら、ろれつの回らない王様からの命令は、ちょっと可愛いし。
どこを洗ってやっても、くすぐったい、くすぐったいと喜んでいるみたいだし……。
身体を拭いてやり、下着からパジャマから全部俺に着せさせて、のだめは王様の命令だと偉そうに喜んでいるが……。
王様の命令だから、仕方なくやっているという表情になってしまうのは、俺の性格だ。
本当は、俺のほうが楽しんでるなんて、絶対に言えねーけど。
髪まで乾かしてやり、ベッドに運んでやる。
ごろんっとベッドに転がしてやると、ふにゃりと満足気にのだめが笑う。
「王様の命令デス!キスしてくだサイ?」
「はいはい……」
のだめの上に覆いかぶさり、触れるだけの優しいキスを。
「王様、次の仰せは?」
「えと……」
のだめは、急に酔いが醒めてきたように、大人しくなったかと思うと、恥ずかしそうに頬を染めて、もじもじしている。
ここから先のことは、命令しづらいらしい。
「あのデスね……」
「うん……」
のだめは目を伏せたまま、はぁっと息を吐くと、意を決して俺に命令する。
「王様の命令デス……王様を真一クンに代わってもらいマス……」
それじゃあ、結局いつもと同じじゃねーか。
--------END---
よろしければぽちっとお願いします↓

今年買った手帳の巻末に、なぜかフランスのお菓子にまつわる年間行事なんていうのが載っていました。
仕事の合間に(オイ)読んでいたら、ガレット・デ・ロワのことが載っていて、このお話を思いつきました(仕事中に)
てか、二人王様ゲームですけど(爆)
来年は、真一クンがリベンジ編を……いや、どうかな(笑)
正月ボケのリハビリですので、こんなもんで勘弁くだされー。
2011.1.7 香水
SS indexに戻る |