ウェディングドレス姿ののだめを抱き上げ、幸せそうに微笑む真一。
真一の腕の中で、幸せそうに微笑返すのだめ。
イタリア郊外の教会の前で、そんな二人の姿をファインダー越しに見つめ、目頭を熱くさせる男が1人。
親友!そしてソウルメイト!本当によかったな☆
思い起こせば7年前。
桃ヶ丘のキャンパスで、無自覚にいちゃつきまくるバカップルに、散々振り回されてあてられ続けた俺だったけど、この幸せな日のための必然だったと思えば、それもいい思い出だ!
どんなに千秋に邪険にされても、お構いなしで笑顔でまとわりついていたのだめ。
どんなに振りほどいても、まとわりついて離れないのだめに、まんざらでもなさそうだった千秋。
そして、お前らは突然、俺に断りもなく留学を決めると、あっさりと旅立っちまったけど……。
数年後にパリで再会したお前たちは、ただの大学の先輩と後輩から、恋人同士に関係を進展させていて……。
でも俺には、あの頃からこうなることなんて、お見通しだったんだよっ!
Engagement
峰龍太郎は、涙で霞むレンズの向こう側の光景を、感無量で見つめながら、1年ほど前のある夜の出来事を思い出す。
それは、自分が演出家として初めて携わったオペラ本番が終わった、達成感と満足感で満たされた、最高の夜のことだった。
「親友!お前はやっぱり最高だぜっ☆ ありがとなっ!」
「いろいろ心配かけたな……。
こちらこそ、ありがとう……」
「ち、千秋が俺にお礼を言うなんて……(涙)
ちくしょうっ!明日はマシュマロが降ってくるかもしれねーなっ!(意味不明)
とにかくお前はやっぱり、サイコーの親友だっ!」
「うわっ!や、やめろっ!」
感激のあまり、人目もはばからず力いっぱい真一に抱きつく峰。
舞台裏を撤収作業のために行き交うスタッフたちから、あやしがられてもおかまいなしである。
あいかわらずの暑苦しいほどの峰のリアクションに、真一は照れて無愛想に引きはがすものの、めずらしく素直な言葉を返す。
「まぁ……とにかくよかった。
俺ももっとオペラ勉強するし……。
また機会があったら、一緒にやろう」
「うわーんっ!親友っっ!」
「だ、だからやめろって……」
真一に力いっぱい抱きついて、ひとしきり泣きじゃくると、やっと落ち着きを取り戻した峰が口を開いた。
「この後、打ち上げだ。お前も来られるよな?」
「いや……悪いんだけど、ちょっと予定があって……」
「え……そっか。のだめは?のだめも一緒か?」
「あ、ああ……」
「まぁ、しょーがねーよな!忙しいお前らのことだ、みんなもわかってくれるだろ?
パリにはいつ戻るんだ?」
「あ、ああ……明後日の夜だけど」
「じゃあ……明日の夜とか時間とれねーか?
せっかく清良も黒木君も日本にいるんだし、お前ら二人とも久しぶりだし……」
「うん……明日の夜なら、のだめも時間とれると思う。
……連絡してくれ」
「わかった!じゃ、明日なっ☆」
「おう……」
こうして、あの感激の本番後、俺と親友は翌日の再会を約束して、一度は別れたのだが……。
「やだっ!龍ちゃん、どうしよう……」
飲み会に移動する途中で、真澄ちゃんが俺に泣きついてきた。
「なんだよ?どうしたんだよ?」
「オペ研に借りてた衣装で、忘れてきちゃったのがあるみたいなのよ。
ねぇ龍ちゃん、今から戻れるかしら?」
「えーっ!困るよぉ〜!そういうのは衣装係がちゃんと確認してくれねーと!」
「ちょっとっ!私はティンパニー奏者であって、衣装係じゃないわよっ!
なんなのよっ!散々私に本業以外のことさせて、こんな時まで私を責めるなんて、ひどいわっ!」
龍ちゃんがこんなヒドイ男とは知らなかったわっ!もう二度と協力なんてしてやらないんだからっ!きぃーーーーーっ!
ふわふわを振り乱し、じたばたと峰を責める真澄に観念して、仕方なく二人でザ・ガーデンホールへ引き返すことになった。
あとから思えばこれは、真澄ちゃんの執念というか、俺と親友の絆の深さゆえのアクシデントだったのかもしれない……。
ザ・ガーデンホールのある恵比寿ガーデンプレイス内に入ると、俺の視線の先には見慣れたカップルが歩いていた。
「真澄ちゃん、あれ……」
「まぁっ!千秋様と……めくそね。これからお帰りになるのかしら?」
「いや、駅ならこっちに向かってくるだろ?ありゃ逆方向だ……」
「タクシーでもひろうんじゃない?」
そんなふうに、あまり気にとめようとしない真澄ちゃんとは対照的に、俺の中の動物的野性の勘がこれは何かあると訴えてくる。
「真澄ちゃん、後つけるぞ?」
「え?ちょっ龍ちゃんっ!やめなさいよ……」(と言いつつ、ついて来る真澄)
ポケットに両手を突っ込み、いつものようにスタスタと歩く千秋の半歩後を、のだめがちょっと俯き加減でいそいそとついていく。
俺たちはしっかりと二人との間に距離をあけ、気づかれないように尾行を続ける。
と、ある建物の前で千秋の足がとまると、少し遅れて並んだのだめの背中にさりげなく手を添え、のだめを先に入らせ、千秋もその後に続く。
ちぇっ!相変わらず嫌味なくらいスマートだぜ、親友!
俺たちも遅れて後に続くが、入口で真澄ちゃんの足がとまる。
「龍ちゃん、ここって……」
「あ、ああ……」
入口から建物を仰ぎ見る二人。
そこはシックなヨーロッパ調の一流ホテル、ウェスティンホテル東京であった。
落ち着いた雰囲気のロビーで、大きな柱にこそこそと身を隠す、もじゃもじゃと金髪の不審人物二人。
俺たちは引き続き二人の様子をうかがう。
「真澄ちゃんっ、千秋がフロントに行ったぞ?!」
「しっ!龍ちゃんてば声大きいわよっ!」
「やっぱり二人はこれから……」
この後の展開を、ごく一般的なカップルの行動に当て嵌める俺に対し、真澄ちゃんは往生際が悪く、どうしても認めたくないようだ。
「お、お仕事かもしれないわよ……」
「ホテルで指揮者とピアニストがどんな仕事だよ……」
「しゅ、取材?」
「こんな時間から?」
「ただ、道を聞いてるだけかもしれないわよ?
ほら、千秋様はヨーロッパ生活が長くて日本は久しぶりだから、横浜までの帰り道をうっかりど忘れしちゃったとか……」
「ありえねーだろ……。
あっ!カードキー受け取ったぞ!」
「……(がーん)……」
白目を向き、泡を吹いて倒れる寸前の真澄ちゃんを支えながら、俺は千秋とのだめの後を眼で追った。
相変わらずスタスタと先を歩く千秋の後を、のだめが半歩遅れて俯き加減で続く。
エレベーターホールでボタンを押し、上を仰ぎ見て、エレベーターの到着を待つ千秋。
その半歩後ろで俯き加減で黙り込んだままののだめ。
「なぁ?のだめの様子おかしくねーか?
あんな静かで落ち着いたのだめは見たことねーぞ?」
「はっ!も、もしかして修羅場?!ついに変態に見切りをつけた千秋様から別れを切り出されたとか?!」
そんな風に勝手に妄想を繰り広げ、真澄が一途の望みに少し復活した矢先だった。
ちーんっ。
一台のエレベーターが到着する。
千秋はやはり、さりげなくのだめの背中に手を添え、先にエレベータに乗せると、続いて自分も乗り込み階数ボタンを押す。
扉が閉まり始めた時、のだめがふいに顔を上げ何やらつぶやくと、千秋の口角がいやらしく上がる。
次の瞬間、エレベーターの扉が閉じていく隙間から覗き見た光景に、俺たちは固まった。
振り返り、肩を抱きながらのだめに覆いかぶさっていく千秋。
それに合わせて、のだめが首を上げ、瞳を閉じる。
それはまるでスローモーションのように、俺の脳裏にしっかりと焼きついて。
二人の顔が完全に重なる。そしてフェイドアウト。
そして、エレベーターのドアは音もなく閉まり、恋人たちを俺たちから隠してしまった。
「……」
「きぃーーーーーっ!のだめ殺すわーーーーーっ!」
ハンカチを噛み締め、悔し泣きする真澄ちゃんを、俺はなだめるように肩を抱いてホテルのロビーを後にする。
打ち上げ会場へと足を進めながらも、俺は先ほどの衝撃的な光景が眼に焼き付いて離れない。
「千秋ってやっぱり、かっこいいな……。
映画のワンシーンみたいだったぜ☆」
「龍ちゃん何いってんのよっ!
千秋様がいくら素敵だって、相手がのだめじゃB級ホラーなのよっ、きぃーーーーーっ!」
その日の朝に遡る。場所は横浜、三善家。
最悪のゲネプロから一晩明けたが、真一はなんの解決策も見出せず、オペラ本番の朝を迎えていた。
"今度こそダメかもしれない……
奇跡でも起こらないかぎり、成功する気がしない"
真一は、眠れない夜を過ごし、憂鬱な気持ちでベッドから起き上がった。
何度も自分を救ってくれた、のだめの"おにぎり"でさえ今回は効き目がなかったようで、真一はコーヒーだけ口にすると、のだめとも顔をあわせずに家を出た。
まだ会場入りするには時間が早すぎる。
真一はあてもなく、横浜の街を彷徨う。
ふと、ある店のショーウィンドーが目が入り、真一の足が止まった。
"今晩あたり、のだめの前にひざまづいてプロポーズをさせてみせマス!"
ボロボロの通し稽古から戻って、盗み聞きしてしまったのだめの本音。
思わず、誰がするかっ!と古伊万里の花瓶を投げつけてしまったけど……。
"俺だってわかってる。いつか、近い将来、アイツにプロポーズをする破目になるってことくらい。
でも、今この状況で、プロポーズはありえねーだろ?"
そんな風に思っているのに、なぜか足は店内へと向かってしまう。
「ご婚約ですか?おめでとうございます」
ふらっと入ったジュエリーショップで、エンゲージリングを眺める千秋に、店員が声をかける。
「い、いやっ、まだそんな……」
「こちらはいかがですか?
今、とても若い女性に人気の商品でございます」
"なぜ俺が立ち寄るジュエリーショップの店員は押しが強いんだ?
それとも、ジュエリーショップの店員は、押しが強いのがデフォルトなのか?"
「どんなデザインがお好みですか?」
「シンプルで……、か……、かわいい系ので……」
「ではこちらはいかがでしょう?
ハートシェイプダイヤは、その可愛らしさから女性に根強い人気がございます」
「ハート型……エンゲージにルビーはおかしいですよね?」
「左様でございますね……。
お客様、ルビーに思いいれがおありでしたらこちらはいかがでしょう?
ハートシェイプのダイヤに寄り添うようにセッティングされた小粒のルビー。
シンプルで、とっても可愛らしいと存じます」
「……それでいいです」
ああ、俺は一体なにをしてるんだ?
奇跡を信じたいのか?
もし今夜、公演がうまくいったら……。
アイツにこれを渡して、予約してやるっ!!
翌朝、真一は19階のエグゼクティブダブルで、朝日を浴びて目を覚ました。
ベッドの隣には、婚約者が微笑みを浮かべながら、気持ちよさそうに眠っている。
真一は、その子猫のように柔かい茶色の髪を優しく梳き満足気に微笑むと、思い切ってベッドから抜け出しシャワールームへ向かう。
シャワーを浴びベッドルームに戻ると、携帯が着信を知らせていた。
ん?峰?
「もしもし千秋だけど、電話くれたか?」
「お、おお……早かったな?」
「は?」
「あっ、いやっ、昨日本番だったから、疲れてるだろうと思って……。
べ、別に深い意味はねーよ?」
「相変わらず訳わかんねーな。
それはお互い様だろ?そっちこそ、打ち上げ朝までやってたんじゃねーのか?」
「いや、そーでもねーけど……」
「ところでなんだ?今夜のことか?」
「あ、ああ……それなんだけど……。
悪い、今日はキャンセルさせてくれ」
「はぁ?なんだよそれ……なんかあったのか?」
「いや、他のメンバーに確認してみたら、みんな予定が合わなくって……。
ごめんな、こっちから誘ったのによ」
「……そんなことかまわねーけど。
まぁ、またそのうち会えるだろ?」
「う、うん……そうだな。
千秋、朝早くから悪かったな」
「……別に。じゃあまた」
「おおっ、二人とも気をつけて帰れよ?
のだめにもよろしく!」
「わかった。サンキュ」
プッ。
「はぁぁぁ……」
龍太郎は、めずらしく大きなため息をついた。
「龍?どうしたの?今の千秋君?」
「あ、ああ……」
「今日、みんなと会うんじゃなかったっけ?」
「……悪い。それキャンセルだ」
ええー?!久しぶりにのだめちゃんと千秋君と飲めるって楽しみにしてたのにー!
清良はがっかりした様子でしばらくブツブツと言っていたが、またそのうち会えるわよねっ!と気を取り直すと、朝食をとるためキッチンへと向かった。
みんな、ごめん!
とてもじゃねーけど昨日の今日じゃ、俺は恥ずかしくって、あいつらの顔がまともに見れねえ!
それくらい、昨夜の千秋とのだめのキスシーンは色っぽくて……。
龍太郎は、昨夜のエレベーター☆キス(峰命名)を思い出す。
同性から見ても照れてしまうほど、千秋の表情は色っぽくていやらしくて……。
ああ、ダメだ!
千秋、お前たちのラブシーンは、俺には刺激が強すぎるよ……。
「うぉぉぉぉぉーーーーっ!」
「龍っ!うるさいっ!!」
朝から雄たけびを上げ、清良に怒鳴られて、自分の好奇心の強さを反省し、千秋とのだめのラブラブ加減を恨めしく思う、峰龍太郎、26歳。
ちょっぴりディフェンスな朝。
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大変お待たせしました!
リク祭ファイナルを飾るのは、らいすサマリクエストのSSです。
リク内容は「オペラ編補完で、今回のリクエストの続きのようなショートショートを。やはり峰くん視点で。千秋とのだめがカップルらしいところを目の当たりにして、数年前を思い出し、感涙にむせび泣く峰くん。ハンカチを噛み、くやしがる真澄ちゃん。カップル然としたエピソードは、うーん、お任せします。ドキッとするものを☆」とのことでした。
なにやら、峰くんは感涙にむせび泣くというよりも、真一クンのあまりの色気に真澄ちゃんよりショックを受けてしまったようで(笑)
自分でも、予測もできない展開に驚いています>おい
どうですか?ちょっと大人で、ジェントルマンだけど、色っぽい真一クンと、あの本番の昼間に買ったというエンゲージリングの購入シーンをさくっと補完してみました。
気に入っていただけるといいのですが……。
まだまだ隙間がありそうですね、このお話は(笑)
それでは、らいすサマ、また当サイトをご愛顧くださる読者の皆さまに感謝の気持ちをこめて献上いたします。
今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。
2010.12.7 香水
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