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夜想曲 のだめと二人、手を繋いでパリの街を歩く。 こうやってニナ邸にむかうのは、もう何度目だろうか? 初めて二人で行ったのは、俺が強引にアイツを連れて行って、モーツアルトを連弾したとき。 アイツは自分がどこに、なんのために連れて行かれるのかもわからないままニナの家に辿り着いて、サマーセミナー以来見たニナに拒否反応を示してたっけ。 二度目にニナ邸を訪れたのは、前回の断りもなく、突然二人でやってきたと思えば、ピアノを弾いて、ちょっとしたラブシーンを演じて、あっという間に帰っていった俺たちに対し、ちゃんと説明とお詫びをするようにと呼び出されたとき。 俺はのだめと手を繋いでニナ邸にむかいながら、あの、なんとも言いがたいお茶会を思い出していた。 「お、おじゃまします……」 「どうぞ?上がってください、NODAMEさん……だったわよね?」 「はっ、はい……(ガクブル、じんましん発疹中)」 「……」 「シンイチ、ちゃんと紹介して頂戴?」 「あ、はい……。大学の後輩の野田恵です。 先日は突然おじゃまして、すみませんでした……」 「まぁ、あれはね、私も楽しかったからいいのよ。 もうこの年になったら、若い人の惚れた腫れたを見るくらいしか、楽しみなんかないんだから。おほほほっ!」 「じゃ、じゃあ、今日はなんのために……」 「ピアノ使用料……ってとこね? いろいろ確認したいこともあるし……。 NODAMEさん、だったわね。見たわよ、シュトレーゼマンとの共演の動画」 「ぎゃ、ぎゃぼっ!お、お恥ずかしい限りで……」 「恥ずかしいなんてことないでしょ? 一流オケをバックに、堂々とした演奏だったわよ。 かなり異色のショパンだったけど、嫌いじゃないわよ?」 「あ、ありがとうゴザイマス……」 「これからどうするの?」 「は、はい……。あのミ……、シュトレゼマンとの共演はアクシデントみたいなものだったので、今はコンセルヴァトワルに戻って、一介のピアノ留学生デス。名乗るような者じゃないデス……」 「あはははっ!NODAMEって面白いわねっ!先生はどなた?」 「シャルル・オクレル先生です……」 「そう……、オクレール氏にねぇ……。 ちょっと確認したいわ。 ねえ、NODAME。弾いて欲しい曲があるんだけど……」 ニナが指定した曲はバルトークの組曲。 のだめはがちがちに緊張した様子だったが、ニナと顔をつき合わせているより、ピアノを弾いているほうが気が楽なんだろう、弾き始めた途端に活き活きとしだし、いつもどおりののだめらしいピアノを奏でる。 「ふぅ……」 「Bravo!」 途中から立ち上がって背後で聞いていたニナがのだめに歩み寄り、声を掛ける。 「やっぱりあなただったのね。セミナーが終わってから、忍び込んでピアノを弾いていたのは」 「ぎゃぼっ!あ、あれ聴かれてたんデスか……」 「弾いている姿は見られなかったけど、あんな演奏をした生徒はいなかったから、あなたじゃないかと思っていたの。ずっと気になっていたのよ。 でも、ずいぶん成長したわね。さすがオクレールだわ」 のだめを連れて、テーブルに戻ってきたニナに、俺はなんの話かわからず訊ねる。 「シンイチがまだ日本で学生だったころの、長野の私の音楽祭の時の話よ。覚えてるでしょ? のだめは課題曲だったバルトークを練習してこなかったどころか、初見もまったくだめで、私は彼女を見込みなしと追い出したの。 でも、音楽祭が終わってから、異色のバルトークが聴こえてきたのよ。 そんな演奏をする生徒はいなかったから、もしかしたら彼女かと思っていたの。」 「そうなのか?」 「はい……、お腹すかせながら、頑張ってシャドー練習シマシタ。 二ナのレッスンには怖くて行けなかったんですケド」(注:日本語) 「そう……、やっぱりあのときのね。 つまり、シンイチとNODAMEはあのころからってわけね?」 「はぁ?なんのことですか?」 「まぁいいわ。シンイチがいるといろいろ邪魔だから、 いないところでいろいろ確認することにして。 さ、厨房のマエストロには、おもいっきり腕を振るってもらいましょう?」 「はぁ?どういうことだよ……」 なにやら面白くない展開になってきた。 ピアノ使用料と称して、俺には食事を作れと。 その間、女たちは俺には内緒の話があるのだと言われ、俺はキッチンに押し込められた。 「ねぇ、NODAME。シンイチとはどうやって知り合ったの?」 「ええと……。玄関の前で拾いまシタ」 「はぁ?」 「話せば長いんデスが、あれは、それは綺麗な満月の夜でシタ。のだめが近所のプリプリマートでお買い物をして、マンションの階段を自作曲「ねこのフーン」を歌いながら自宅に戻るとデスね、玄関の前に真一クンが座り込んで眠ってまして……」 「わ、わかったっ!その、拾った話は置いておいて、じゃあ、二人が出会ってから、どうやって恋人同士になったのか、そのあたりまですっ飛ばして、面白いところだけ抽出して、教えてもらえないかしら?」 「ええー!?ニナずるいデスよ?美味しいところだけ聞きたいんデスね?」 「そうそう!幼い頃からちょっと無愛想で、屈折して鬱々とした不器用なシンイチを知ってるオバサンが聞いて、オモロ〜!って思うところだけ、聞きたいのよっ!」 「しょうがないデスね?今回だけデスからね?真一クンには絶対内緒デスよ?」 「内緒、内緒にするっ!墓場まで持っていくから!」 「了解デス!冥土の土産に飛びっきりの真一クンとのだめの愛の軌跡をお聞かせしマスよ!」 俺はつくづく損な性格だと思う。 この完璧主義(粘着ともいう)のために、食事をつくれと頼まれれば、手を抜くことなく完璧を目指してやり遂げてしまう。 女たちが俺のいない場所で、俺のことを面白可笑しく話しているなど、まったく知りもしないで。 「それでですね、真一クンってば、血相を変えて新幹線に乗って、うちまでやってきたんデスよ? タクシーを乗り捨てて、のだめの背後から"がばっ!"と抱きついてデスね」 「やーんっ!背後から抱きつきっ?!あのシンイチが?」 「ばいー!そこを、たまたま通りかかった辰男に見つけられてデスね」 「タ、タツオ?」 「あ、辰男はのだめのお父さんデス。『なんばしよっとかーーーーー!そげんかとこでーーーーー!』って怒鳴られて、固まってまシタ、真一クン」 「ぎゃははははっ!お、おっかしーーーー!ひっひぃーーーー!」 「ニナ、笑いすぎデスよ?のだめと真一クンの奇跡のラブアクシデントなのに……」 「ご、ごめ……、だ、だって……、その時の真一のこと想像したら……、ぎゃはははっ!」 「それでデスね、のだめはコンセルヴァトワルで授業が始まったとたん、即挫折だったわけデスよ」 「わかるわかる。NODAMEみたいなタイプ、普通に音楽院でやれるわけないわよ、よく頑張ったわねぇ……。 私も子供のころはバカバカしくって楽譜なんか読んでられなかったわよっ!」 「えっ!ニナもデスか?わかってもらえマス?」 「当たり前よー!私たちみたいな天才的なセンスと耳を持ってたら、子供のころにやる練習曲なんてちゃんちゃらおかしくって、楽譜どころか、鍵盤だって見ないで弾いちゃうわよっ!」 「わぁー!ニナってやっぱり天才だったんデスね!嬉しいデス!」 「で?落ち込んでるNODAMEに、シンイチはどうしたわけ?」 「それがデスね……、コクりもしないうちに、いきなりディープキッスですヨ?ぶちゅーーーっと!もう、のだめビックリしたなんてもんじゃないデスよ!」 「まぁ!?あの子が?あの屈折鬱々のシンイチが? 怖いわねぇ、男の子って……」 「まぁ、のだめも負けずに、『この的外れがっ!』って罵倒してやりまシタよ!」 「さすがNODAME、強いわねっ!」 「当たり前デスよ!の、のだめ……、男の人からキッスされるの初めてだったんデスよ?」 「まぁ……(おそっ)、それはシンイチが悪いわねぇ。 なんでも初めては大切にしたいわよね」 「そうなんデスよ!初めてのえちのときもですね……」 「ふんふん……」 俺はまさか、女たちがそんな話をしているとはつゆ知らず、その礼儀知らずな女たちのために、せっせっと美味いディナーを作っていた。 仕上げの味見をし、完璧な出来に、やはり俺は何をやっても完璧だと自分に酔いながら、リビングにいる女たちに声をかける。 「あの……、夕飯できたけど?」 「ま、まぁ、そんな時間? あっという間だったわぁ、NODAME、この続きはまた今度ねっ!」 「了解しまシタ!」 「……」 なんだかわけがわからないが、女たちは俺の知らない間にすっかり打ち解けていたらしい。 テーブルのセッティングをのだめに手伝わせ、ニナはワインセラーからとっておきの一本を用意してくれる。 「じゃあシンイチ、最後の仕事にかかって頂戴」 「は?どういうことだよ……(くたくた)」 「今日は私とNODAMEの再会を祝う日なの。乾杯をしたいから、素敵なピアノを聞かせて頂戴」 「な、なんで俺が……。ピアニスト二人の前で、指揮者の俺が……」 「あーら?そんなこと言ってていいのかしら? 今日、のだめから仕入れた二人のいろんなこと、マサユキにばらしてもいいんだけど?」 「オイッ!お前なに言ったんだよ!!!」 「ぎゃぼっ!な、何も言ってないデスよ……(目そらし)」 「はぁ……、簡単な曲しか弾けないですよ?」 「そうねぇ……、じゃあ、ショパンのノクターン、第2番お願いしようかしら?」 "クスクス……" 「え……、わ、わかりました……」 この流れでこの曲、非常に嫌な汗が流れる中、とにかく何も言わず、何も触れずに、ショパンのノクターンを弾ききる。 背後の女たちの様子はわからないが、なにか面白がられているらしい空気を感じる。 のだめのやつ……、あとでただじゃおかねぇっ! 「Bravo!」 「ど、どーも……」 俺は、ニナの面白がるようなギラギラした視線に気付かないふりをして席につき、ニナから次がれるワインに口をつける。 「……若いうちはどんどん恥をかきなさい……(ぼそっ)」 「ぶふぉっ!」 「やだぁ、真一クンってば……」 ワインを噴出した俺の口元を、ナプキンでふき取るのだめ。 反応するもんかと思いつつ、『お前のせいだろっ!』と睨みつける。 そんな俺に、のだめは舌をぺろっと出し、ニナとワインが美味いだの、料理が最高だのと、楽しそうに食事を続けた。 食事が終わり、リビングに移動してコーヒーを飲んでいると、ニナから今日のお礼にピアノを聴かせたいと言われる。 「それは光栄デス!なにを弾いてくれるんデスか?」 「シンイチに素敵なショパンを弾いてもらったから、私もショパンをお聴かせするわ」 ニナが奏でるのは、ショパンのソナタ第3番 3楽章ロ長調。ノクターン風の甘く美しい調べ。 運命を変えるかのような、衝撃的な出会い。 最初はその大切さに気付かず、育まれる絆。 流れる時間の中で、気付いた気持ち。始まった恋。 甘く切ない思い。愛しさに胸焦がれ、過ごす夜。 ニナのピアノが奏でるのは、胸の奥深く、心に浮かぶ、愛しい人を思って、抱きしめ愛撫するような……優しい優しいメロディ。 恋人への愛しさが胸に溢れて、零れて、全身が温かく包まれるような。 俺は思わず、ソファの横に座るのだめの手を、そっと握り締めていた。 あれから何年たっただろう? 俺たちはまだ、ニナと同じパリに暮らしている。 最近は毎月のように、こうして二人で時間が取れると、ニナのところに通うようになった。 「ぎゃぼっ!」 「おっと、あぶねぇ……。気をつけろよ?」 「は、はい……。ごめんなサイ、ありがとデス」 のだめの少しふっくらとした手を、しっかりと握りなおす。 「今日は何弾くんだ?」 「むーん……、まだ決めてまセン。先月も、その前もモツアルトでしたし、今日は違うものにしまショウか?」 「そうだな……。なんでもいいよ、お前が弾きたいものなら俺は」 「そういうのが一番困るんデスって……」 「あ、そっか。ごめん」 「もう……、だめなパパデス」 bibi! ニナ邸の呼び鈴を押す。 「いらっしゃいっ!どう調子は? あら?だいぶ出てきたわね、お腹」 「はい……、もうすぐ8ヶ月デスよ?」 「もうそんなに?じゃあ、赤ちゃんに会えるのももうすぐね!」 「はいっ! ニナのおかげで、休業中もピアノが弾けるし、こうして真一クンとお散歩ができるし、本当に感謝してマス」 「うふふ。大好きな二人のお役に立ててうれしいわ。 シンイチ、どう?もうすぐ父親になるのよ?嬉しいでしょ?」 「はい……、すごく今、ワクワクしてます」 そういって、大事そうに握り締めた手に力を入れ、真一とのだめは幸せいっぱいの笑顔で、お互いを見つめあう。 「まったく……、毎度毎度、私の存在を忘れないでほしいわ……」 くすっ。ニナは小さく微笑むと、幸せそうに微笑あう二人をしばらく二人っきりにしてやることにして、先にピアノ部屋にむかう。 もうすぐ生まれてくる、二人の愛の結晶に思いをよせながら。 --------END--- リクエスト祭、第一弾!まぽサマよりリクエストのSSです。 リク内容は、「真一くんとのだめちゃんがニナ邸に呼ばれてそこで彼女がピアノ弾く。(かるくお茶をしたあとで)その間ニナに言われてご飯の支度をさせられる。真一くんがいない時に彼のことを聞かれる。その後、食事中に二人の関係を根堀は堀聞かれてからかわれる。食後もまたピアノを弾くのだが、今度は真一くんも弾かされる。彼女も同様。そしてニナが最後に1曲弾いてその様子を二人で甘甘LOVE×2な雰囲気で聞く。そしてニナの演奏が終了したらまたからかわれるといった内容のお話で超甘甘な感じでお願いしたいです。」とのリクエストでした。 長いばっかりで、あんまり甘甘にならなくってゴメンナサイ!(土下座) Lesson135の補完のようになってしまったかも。 まぁ、からかわれるということについては、「人前でノクターンを弾かされる、しかもその逸話まで知られているっぽい」以上に屈辱的なことはないでしょうネw 香水的には、ニナとのだめの再会を祝うことができて、大満足です。 リクくださったまぽサマ、ありがとうございました! これに懲りずに、今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。 ショパンはロマンチックで素敵ですネ!(ショパン先生に振り逃げw) 今回も、音楽の力に香水の無力さをカバーしていただくことにします。 SS indexに戻る |