芒果布甸/Mango pudding



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まんまるお月様







 この1週間というもの、俺の親友、千秋の様子がおかしい。


 大学院生になって、授業もそんなに無いはずなのに、やたらと大学内をうろうろしてるし、R☆Sの練習にもやけに早くやってきてはロビーでウロウロ。
 練習が終わってからも、オケメンバーの輪から離れたところでウロウロ。なんだ?いまさら人見知りか?


 R☆Sは初演が大成功で、早速再演も決まり、初演を見た若手の有望な演奏家たちが加入希望で押しかけてきたり、俺もR☆Sのメインスタッフとして忙しくしていたから……、千秋のことあんまりかまってやってなかったし、アイツ寂しかったのか?!


 今日も、練習が終わって、メンバーで盛り上がっているところを、少し離れたところで総譜を眺めるふりをしつつ、千秋がこちらを窺っている。


 しょーがねーな!親友の俺がここはさりげなく、千秋を輪の中に入れてやらねーとな。


 「おーいっ、千秋〜!今日これから、新しいメンバーの歓迎会やるんだ。
 お前も来られるだろ?」


 「えっ!あ、ああ……。かまわないけど……」


 なんだなんだ照れちゃって、可愛いところもあるんだな!


 よし、今日は俺が千秋のために一肌脱いで、あいつの寂しい友人関係を華やかにしてやるか!









 ロビーにメンバーが集まってきた。


 今日は歓迎会だから、新しいメンバーに漏れがあっちゃまずいよな?


 全員そろってるか確認する、気遣いのできる俺(自画自賛)


 「よし!全員そろってるな?じゃあ、早速行こうぜ!」


 「あ、峰君、悪いんだけど……」


 声を掛けてきたのは、チェロに新しいメンバーとして加入した田中。


 「ん?どうした?」


 「誘ってもらって申し訳ないんだけど……、今日は別の約束があって……。ごめん」


 「そ、そっか。約束があるんじゃ、しょうがないよな。
 じゃあ、また次の機会ということで!」


 「う、うん……。じゃあまた」


 そういって、田中はいそいそと帰っていった。
 俺は、去るものは追わない主義だから、全然気にしないぜ!


 「おい、峰……」


 「なんだよ、千秋」


 「あの……た、田中ってやつさ……、なんか、の、のだめと関係あるのか?」


 「ん?あっ!そうそう!のだめの音高時代の同級生らしいぜ!
 なんだ千秋、気になんのか?」


 「ばっ!ばかなこと言うな……、な、なんで俺がのだめのことなんか……」


 「そっか!(あっさりスルー)じゃあ行くぞ!」


 「……」









 一次会で盛り上がり、二次会に繰り出そうと店を出る。


 「お、おい峰……、俺はそろそろ……」


 「なに言ってんだ?まだお前の友達、できてないだろ?!」


 「は?俺の友達ってなんだよ?」


 あ、いけね!俺としたことがっ。


 千秋のようにプライドがチョモランマ級に高い男に、友達をつくってやろうとしているだなんて、気付かれたらせっかくの俺様の優しさも水の泡だよな?


 「い、いやっ!俺がさっ!まだ新メンバーとイマイチ馴染めてないっつーか、それには千秋の力が必要なんだよ!だからさぁ〜もう一軒だけ付き合ってくれよ!なっ!」


 その時だった。


 一軒目から二軒目へ移動しつつ、人見知りして嫌がる千秋を(それ違うと思います)ひっぱっていこうとしていたところ、ある店から飛び出してきた男女。


 「おいっ!恵っ、待てよっ!」


 「なにしよるんっ!もう、恵のことは放っておいてくだサイ!」


 女の腕を強引に掴んで、逃がさないようにする男。
 その男からなんとか逃げようと、抵抗する女。


 「お、おい、あれ……」


 呆然とフリーズする俺の視界の中を、黒い影がすごい勢いで飛び出していく。


 がしっ!


 「おい、嫌がってるだろ……」


 「な、なんだよ……」


 「ち、千秋先輩……」


 あっという間に、新メンバー田中の腕を捻り上げ、二人の間にすっと割り込み、さりげなくのだめを背後に隠して、立ちはだかる千秋がいた。


 「「「おおーーーーっ!」」」


 鬼指揮者の素早い行動に、オケメンバーから歓声が上がる。


 「み、みんな今日は悪いけど、ここで解散な?
 じゃ、また次回の練習で☆」


 野次馬根性で事の成り行きを知りたがるメンバーたちをなんとか追い返し、にらみ合いを続ける千秋と田中に声を掛ける。


 「なぁ、こんなところで睨みあってるのもなんだし、のだめだって可哀想だろ?
 どっか落ち着けるところ、はいらねーか?」









 4人掛けのボックス席に、俺と田中が並び、向かい側に千秋とのだめが並ぶ。


 田中は酒を注文すると、つまらなそうにふてくされて、黙って飲みに専念している。


 その向かい側で、千秋とのだめはすっかり二人の世界に入っており、俺たちのことなんて眼中に無い様子。


 「お前……、最近何してたんだよ?
 メシも食いにこねーし、ピアノも弾きにこねーし……」


 「ち、千秋先輩には関係ありまセン……」


 「はぁ……、そうだよな?
 俺とお前は単なる大学の後輩と先輩なだけだもんな?


 そのただの大学の後輩に、毎日のようにメシをたかられて、時には風呂も貸してやり、ピアノの練習まで見てやってた俺は、本当に馬鹿だよな?」


 「……」


 「散々世話してやったのは、俺の勝手であって、お前には迷惑だったのかもしれねーな!


 悪かったな!もう金輪際お前にはかまわねーから、お前もメシたかりに来たりするんじゃねーぞっ!」


 のだめを睨みつける千秋。
 うつむいたまま、だまりこくるのだめ。


 一見無反応のようなのだめの様子に、わなわなと震える千秋。


 ち、千秋……。
 それって"俺は寂しかったんだぞっ!"って告白してるも同然だぞ?!


 頭脳明晰のクセにどうしてこいつは自分の気持ちに気付かないんだ?!
 俺はあきれ返って、言葉が出てこない。


 それに対してのだめはのだめで、ここまで千秋が無自覚な愛の告白をしているというのに、相変わらずうつむいたままで、何も話そうとしない。


 がたっ!


 しびれを切らした千秋が立ち上がり、帰ろうとした瞬間、それまで黙って飲んでいるだけだった田中が口を開いた。


 「なんだよそれ?
 まるで彼氏が彼女に拗ねてるみたいじゃねーか……」
 

 「……き、気持ち悪いこと言うな。
 大体、お前には関係ねーだろ?」


 「関係なくねーよ。俺は恵のことが好きなんだから。
 音高時代からずっと好きだったんだ……」


 「だ、だからって関係ねーだろ……」


 千秋が弱弱しく切り返す。


 その言葉に弾かれたように、田中が顔をあげ、千秋を見るとぼそぼそと語り始めた。


 「音高を卒業して離れ離れになっても、俺は恵のことが忘れられなくて。


 R☆Sに加入して、桃ヶ丘に練習に来て、ばったり恵に会ったんだ。


 うれしかったよ、再会できて。恵はまた一段と可愛くなってたし。


 俺の気持ちは変わってないから、また恵に付き合ってほしいって告白したけど、好きなやつがいるって断られて……。


 でも、片思いで叶わない相手なんだったら、そんなやつ諦めて俺と付き合ってほしいって、この1週間、ずっと恵にアタックしつづけてたんだよ……」


 「げ……、1週間も……」


 「千秋君さ、恵のこと何とも思ってないんだったら、ここではっきり振ってくれないか?


 そうしたら、恵だって君のこと諦めて、俺と付き合ってくれるかもしれないし……」


 「え……」









 「のだめ……、お前は田中君のこと、どう思ってるんだ?」


 千秋が重い口を開けた。


 「のだめは……、
 そういうことはここでは言いたくありまセン。


 それは田中君にも失礼だし、千秋先輩にも……」


 のだめはうつむいたまま、普段の元気などまったく感じられない。


 田中からの1週間もの攻撃に疲れきっているようだ。


 のだめは優しいヤツだから、千秋の前で決定的なことを言って、これ以上、田中を傷つけたくないと思っているのだろう。


 俺は祈るような思いで、千秋を見つめた。






 「お、俺は……」






 ごくっ……。






 へたれな千秋が必死に自分と戦っているのがわかる。親友、俺にはわかるぞ?!






 「俺は……、の、のだめのことが……」






 頑張れ千秋!男になるんだよっ!
 この一週間、のだめと会えなくて、寂しかったんだろ?






 「の、のだめのことが……」










 がたんっ!






 「おい、のだめ……どうした?!」






 のだめが突然立ち上がり、俺のことをまっすぐに見つめる。






 「峰クンっ!のだめは峰クンのことが好きデス!
 今、この瞬間、フォーリンラブしまシタ!
 お付き合いしてくだサイ!!!!」






 「「「ええっ!?」」」






 のだめのすがるような瞳に俺はソウルメイトの精一杯の優しさを感じた。


 ここは俺がまるっとおさめるしかねーだろ?


 「俺もな、お前に初めて会ったときから、お前しかいないって思ってたんだよ!
 つーことで、付き合うか?」


 のだめはその大きな瞳に涙を溜め込んで、俺を見つめている。


 俺はすべてをわかっていることを伝えられるように笑顔で大きくうなづく。


 「は、はいっ!」


 「じゃあ、田中君、悪いけどそういうことだから。
 これでのだめのことは諦められるだろ?」


 田中は黙って事の成り行きを見守っていたが、きっとすべてを理解したのだろう、"わかった。悪いけどR☆Sも辞めさせてもらうよ"と言い、去っていった。


 のだめは途端にがっくりとうなだれ、大きな溜息をついた。









 「のだめ……、大丈夫か?」


 「はい……。
 峰くんにも千秋先輩にもご迷惑をおかけしてゴメンナサイ」


 「迷惑なんてかかってねーよ!お前も大変だったな。
 まぁ、俺も思わぬ相手に思いを寄せられて困ったことは数知れないからなっ、お前の気持ちはよーくわかるぞ!」


 「「……」」


 「じ、じゃあ、俺はここで。
 またなっ!親友とソウルメイト!」


 俺は強くて優しいのだめのようなソウルメイトを持っていることに誇りを感じ、そのソウルメイトの深い愛情に免じて、ヘタレ千秋を許してやることにした。


 いつものように千秋の腕にはのだめがぶら下がっていて、千秋もまんざらではなさそうだ。
 ちらりと見えるのだめの大きな瞳には、いつものように千秋しか映っていない。


 俺はそんな二人を見送りつつ、千秋の背中に声を掛けた。


 「この借りは、いつか返してもらうからなっ!」


 小さく消えていく二人の頭上には、まんまるで大きな満月が輝いていた。




--------END---


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リク祭★第三弾はらいすサマリクエストのSSです。


リク内容は「峰くん視点で。大学時代無自覚の真一くんに嫉妬させてみたいというか…慌てさせてみたい。のだめの元カレらしき、地元の音高時代のクラスメートが、RSに入るということで、峰くん経由でのだめと再会!ただならぬ雰囲気の二人を見て、焦る真一くん。ちょっとしつこい元カレ(単なる同期生、向こうは気がアリ?)に、嫉妬してのだめに少しは警戒しろと説教をしたり元カレ?に脅しをかける真一くんを見て、呆れる峰くん。気付けよ、千秋…って感じで」との事でした。


いやぁ、難産でした。千秋がヘタレすぎ(涙)
まだまだ香水には無自覚時代は力が及びません。暫く封印します……。
らいすサマごめんなさい。きゅんと切なく、ドキドキはない……ですよね?
今は、これ以上のものは書けそうにありません。中途半端ですが、upします。
また、いずれリベンジさせてください!!


言い訳→R☆S時代って原作のストーリーが完璧で、香水の非力では入り込む余地がないです(涙)
のだめが健気すぎるんですよ!変態で天才で無敵な感じがなりを潜めて、ただ真一クンのために頑張るところが……。
そんな原作の世界も大切にしたいんです(って、ここまで書いてよく言うわなw)


オリキャラの田中君には一人悪者を演じさせちゃって、キャラ膨らませる余裕もなくゴメンナサイ(合掌)


これに懲りずに、今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。
らいすサマの日ごろのご愛顧に感謝を込めて献上いたします。


2010.10.4 香水


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