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芸術家の生涯 "音楽界の至宝、今世紀最後の巨匠シュトレーゼマンが、いよいよ婚約!" そんなニュースが流れたのは、つい今朝のことだった。 俺は久々のオフで、今日は半日惰眠を貪って、午後から部屋の片付けやらを簡単に済ませたら、夕方から買い物に行って、夜はのだめのアパルトマンで久しぶりに二人っきりの夜を過ごそうと計画していたところだった。 ああ、出なければよかった。 オフの日の連絡なんて、碌なもんじゃないはずだとわかっているのに。 俺はエリーゼからの携帯の着信に思わず出てしまった自分の行動を心から後悔していた。 「え、エリーゼ……。知ってると思うけど、俺は今日1ヶ月ぶりのオフで……」 「ええ、知ってますとも! チアキ、私のマネージャーとしての能力、疑ってるの?」 「ま、まさか……。 人間性ならまだしも、マネージャー能力については人間離れした特殊能力に近いと畏敬の念を持ってる……」 「そう……、なんか奥歯に餃子のニラが挟まったような言い方だけど、まあいいわ。許してあげる。 今日のレセプションに大人しく出席しなさい。師匠の人生の一大事なんだから」 「オイ……」 「ついにね、あの桃ヶ丘の理事長が、フランツの102回目のプロポーズにオッケーを出したらしいのよ! これはすごいわよ! あの女好きのエロ巨匠が、初恋から50年、思い続けた女性とついにゴールイン! 純愛の奇跡★情熱の勝利!愛の女神に祝福されたシュトレーゼマンが奏でる、ラブスピリチュアル体験をあなたも! 5年は世界で回れるわね……」 「結局ビジネスかよ……」 「当たり前でしょ?ほかになにがあるのよ? あんな手のかかる年寄りのスケベジジィの世話をし続ける理由。 あったら教えてほしいくらいだわっ!」 「はぁ……、音楽とかあるだろうが……」 「音楽? 音楽が私に何をしてくれるの?バカンスをくれる?イケメンとの出会い?」 「わ、わかったから……。 で?1ヶ月ぶりのオフを俺から奪い取って、なんのレセプションに出ろと?」 「くだらねぇっ!」 「まぁまぁ落ち着いてくだサイ? お目出度いじゃないデスか〜! ミルヒが指揮者を目指すきっかけをくれた理事長とついに結ばれるんデショ? 愛弟子である真一クンも精一杯お祝いしてあげなきゃデスよ!」 「幾らでも祝ってやるよ!休みながらなっ! なにも今日、"プロポーズ成功祝賀パーティー"なんてすることねーだろっ! 俺の1ヶ月ぶりのオフが……。 お前だって『久しぶりに二人でお部屋にコモってイチャイチャしまショーね?』って楽しみにしてたじゃねーかっ!」 「まぁ……それはソデスけど。 ミルヒだって老い先短いんデスから、一日一日を大切にしないとっ! 明日、ぽっくり行っちゃうとも限らないんデスから! 真一クンとのだめのラブラブホリデーは、これからいくらだってあるデショ?」 「……お前って、ある意味ひどいよな、俺より……」 こうして俺とのだめはドレスアップして、レセプション会場であるとあるホテルのバンケットルームへとむかった。 「ミルヒィ〜!オメデトゴザイマス!!!」 「のっだめちゃぁ〜ん!アリガト!!!」 はぐっ! 「お、おめでとうございます、マエストロ……」 「おやチアキ?わざわざ来てくれたんデスカ?」 「はぁぁ?!お、俺はエリーゼに呼び出されて……、1ヶ月ぶりのオフだったのに……」 「おや、そうだったのデスカ。それはご苦労様デシタ。 そうだ、ちょうどよかった。特設オーケストラを用意してあるから、ちゃっちゃと指揮振っちゃってくれる?」 「はぁぁぁ?!」 「さ、のだめちゃん。ごちそういっぱいありますカラネ。 好きなだけ食べて、楽しんでいってネ!」 「はいっ!アリガトデス!」 むっきゃぁーーーー!ごちそういっぱいデス!!! のだめは俺のことなんかお構いなしで、さっそく餌場へ突進していった。 「はぁぁ……、なんで俺ばっかりこんな目に……」 それでも音楽の前では誠実に。 俺は師匠と理事長の長かった春に思いをはせながら、甘いメロディーをオーケストラと奏でる。 俺が飛行機恐怖症のために国外から出られないことを知り、シュトレーゼマンに指揮の指導を頼んでくれたり、R☆Sオケの活動もいろいろとサポートしてくれた理事長への感謝の気持ちも込めて。 そして、今の俺を導いてくれた師匠に、心からの感謝を込めて。 ばっ! ざわざわ……。 突然、会場が暗転し、仕方なく俺はオーケストラの演奏を止める。 ざわつく会場の中、バンケットルームの一角にスポットライトがあたり、そこに浮かびあがったのは本日の主役である、シュトレーゼマンであった。 「ミナサン、今日は私のためにこのようにたくさんの方にお祝いに駆けつけていただき、誠にアリガトウゴザイマス。 私は今日まで、ただ音楽のために、音楽一筋に生きてまいりまシタガ、それは私が唯一愛した女性、桃平美奈子さんとの純愛を貫くためだったのデス!」 おおおーーー! ぱしゃぱしゃっ! 招待客から湧き上がる歓声、マスコミからたかれるフラッシュの光。 満足気にシュトレーゼマンが会場を見渡し、次の言葉を発しようとした、その時だった。 「ちょっと待ったぁーーーー!」 おおおっ?!なんだなんだ? ぱしゃぱしゃっ! 招待客から湧き上がるどよめき、マスコミからたかれるフラッシュの光。 そして、息を切らせて飛び込んできた刺客に、もう一本のスポットライトが当たる(誰が用意したの?) 「その婚約!待った! たとえ全世界が騙されたとしても、このカイ・ドゥーンは騙されねぇ!」 おおおーーー! 「ちっ!来ましたね、この粘着男」 「朝っぱらから縁起でもないニュースが飛び込んできたから、私は朝一番でミーナに連絡したんだ! プロポーズを受けたつもりはないと言ってたぞ!」 「ふんっ!それはミーナの優しさじゃないデスカ。 振られた男をも思いやる、なんと美しい心デショウ……。 そんなことにも気付かないなんて、本当に愚か男デスネ、君は」 「なにぃ〜!」 「ナンデスカ?!」 「よしっ、この決着は「音楽で!」」 「オイ……」 俺は、鼻息荒く近づいてきたシュトレーゼマンに大人しく指揮棒と指揮台を明け渡した。 そして同じように近寄ってきたカイ・ドゥーンは、オケのコンマスからヴァイオリンを奪い、着席する。 「負けるかっ!」 「負けるものデスカっ!」 「はぁ……、意味わかんねー。 どうやって指揮者とオケのコンマスが勝負するんだよ、1つの曲奏でて……」 「ふがふが……、まあいいじゃないですか? ああやって仲良く演奏して、丸く収まったみたいデスし?」 いつのまにか、皿いっぱいの料理を手にしたのだめが俺のそばに立っている。 「それにしてもどういうことなんだよ?真実は?」 「さぁ?ああみえて桃平理事長はかなりの魔性の女っぷりデスからね? 大川のスイートデビルと呼ばれたのだめにも、未知な領域デスよ」 「誰がスイートデビルだよ……」 さすがシュトレーゼマンプレゼンツのレセプションなだけはある。 用意された料理もシャンパンもワインも最高級品ばかりで、聞こえてくるのは世界の巨匠シュトレーゼーマンと世界最高峰コンマスのカイ・ドゥーンの奏でる最高の音楽。 思い通りのオフとはならなかったが、俺はこのアクシデントからもたらされたご褒美に酔いしれていた。 ドイツ人二人は、相変わらず一歩もひかずに最高の音楽を奏でる。 流れてくるのはヨハン・シュトラウス2世の『芸術家の生涯』 金管から弦へとゆったりと、まるでドナウの大きな流れのように美しく。 そして、わくわくと心躍らせる、美しいワルツの調べ。 俺の隣に立つ愛しい恋人は、その桃色の唇をつやつやと輝かせ(肉の食べすぎ)俺を誘い、普段あまり見ることのできないイブニングドレス姿は、背中と胸元を大胆にカットしてあり、すべらかな肌と豊かな胸元を覗かせている。 「最高だな……」 俺は今日一日のオフ放棄から始まった不愉快な出来事など忘却のかなたへ放りだし、のだめの手をとるとレセプション会場の中央に進み、スペースをとる。 「ぎゃ、ぎゃぼっ!も、もしかして……」 のだめの細い腰をぐっと自分の腰にひきつけて、言い放つ。 「踊るぞ?おらぁっ!」 「むっきゃぁーーーー!」 会場中央で踊りだした俺たちを見て、スペースを空ける者、自分たちもと踊りだす者、そしてそんな様子に気付いた巨匠二人も、やっと意地を張るのをやめ、純粋に音楽を楽しみだす。 ダンスに合わせてピッチをあげて、会場を盛り上げるように、こちらをむいて指揮棒を振るシュトレーゼマン。 周囲で踊る者たちを見るだけの観客たちも、シュトレーゼマンの指揮にあわせ、手拍子を始める。 次々と美しいワルツを奏で、レセプションは異様な盛り上がりを持って、幕を閉じた。 「チアキって、ほんと予想外の男ね……」 「どーも……」 「まぁ、なんだかわかんないけど、アンタのハイテンションなダンス乱入で、ジジィ二人の恋の鞘当も丸く収まったみたいだし?」 「結局なんだったんだよ?理事長の気まぐれか?」 「なんだかねぇ、最近、調子が悪いとかいって落ち込んでたフランツが、 『もう自分はだめかもしれないから、人生最後の旅に一緒について来てくれないか?』 とか弱音を吐いてさらっと102回のプロポーズをしたつもりが、 『あら、旅行?いいわね?』 とかって、韓国旅行にでも連れて行ってくれるかと大勘違いした理事長がさらっと答えたのを、フランツがプロポーズ大成功!!!って誤解したみたいよ……」 「……」 「やっぱり理事長って魔性の女デスね……」 --------END--- リク祭★第2弾は、たるさくサマからのリクエストのSSです。 リク内容は「弾けた真一くんが好きです。お酒の力もちょっぴしあって、のだめちゃん大好きオーラを思わず出してしまう…勿論のだめちゃんは大喜びなんて感じの…」とのことでした……がw ごめんなさい、真一クンはかなり弾けたと思うのですが、全然のだめ大好きオーラとか、のだめ大喜びとかないっすね……orz ミルヒー登場については、どんな設定にしようかいろいろ悩んでいたら、たるさくサマより拍手メッセージで、「私はじめ題名(マエ婚)を見た時、ミルヒーの結婚のお話と勘違いしてたんです(笑)で、10話ぐらいに覗いてみて、なんだ真一くんの事じゃーんてなわけで夢中になってます。すみません…」とのメッセージを読み、香水激しくツボにはまって、大爆笑! そか、じゃあミルヒーの婚約話にすっか?という展開になりました。 たるちゃーん、ごめんね?いろいろバラして(爆)だって、すごぉーーーく面白かったんだもん。このお詫びはマエ婚のラブラブシーン増量で(え?) 香水的には、一度、真一クンのソシアルダンス経験を生かしたお話を書きたいと思っていたので、嬉しいっす! んで、盛り上げるためにラデツキーをイメージして、ミルヒーに観客に向かって指揮棒を振ってもらったのですが、ワルツで手拍子ってどうやってやるんですかね(爆) これに懲りずに、今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。 皆サマの日ごろのご愛顧への感謝と、香水のツボをついて癒してくれるたるさくサマに感謝を込めて献上いたします♪ 2010.10.3 香水 ★えー、SSの出来の悪さを音楽に逃げる最近のお約束(汗) 今回は、世界のマエストロ小澤先生に振り逃げデス! 一日も早くお元気になって、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートをお聞きしたいですね! 芸術家の生涯 Op.316 SS indexに戻る |