芒果布甸/Mango pudding



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 はぁ、死ぬかと思った……。


 ローマからシカゴまでの直行便。


 今だに慣れない飛行機での移動。しかも長距離。


 それに今回は、フライト中乱気流に突入し、約30分間も飛行機は上昇・下降を繰り返し……。


 「ひぃっ!」


 俺はその間、泣き叫びたくなるのを必死で押さえ、よっぽどひどい顔だったのだろう、心配して声をかけてくれたCAの腕を思わず掴んで引き寄せると、縋り付いてしまった。


 最初は抵抗していたCAも、俺の尋常ではない様子と、小刻みに震え続ける身体に観念すると、フライトが安定するまでずっと抱きしめてくれて、俺を落ち着かせるように声を掛け続けてくれた。


 助かったんだけど……空港に到着して、飛行機から降りる時、そっと内ポケットに滑りこまされたメモ。


 「……またのご搭乗、心よりお待ちしております」


 耳元に熱い息とともにささやかれた誘惑。


 ホテルにチェックインしてメモをひろげてみれば、彼女の名前と滞在先のホテルが書かれていて……。


 最近、こんなふうに誘われることが多い。


 俺にそれだけ隙があるってことか?


 まぁ、今回のことはアレとしても……そんなつもり全然ないのに。


 むしろ今は、今まで以上に音楽にどっぷり、更にガツガツと仕事に意欲的になっているのに。


 そう、音楽が俺の人生のすべて。





 恋歌 3






 「それはさぁ、何も女性はフランス男やイタリア男みたいに、情熱的に愛の言葉をささやく男ばかりが好きというわけじゃないって事だろ?

 チアキみたいな……むしろチアキぐらいストイックで簡単には靡きそうもない男こそ、惹かれるという女性も少なくないと思うし。

 てゆーか、何を今更。こんなこと、今に始まったことじゃないだろ?
 生まれてからずっとモテ期継続中じゃないの? チアキは」


 「は? なんだモテ期って。
 ……バーで誘われたり、CAからメモ渡されたり、ホテルの部屋の前でオケの団員(男性)に待ち伏せされるなんてこと……今までなかったっつーの」


 明日の本番を控えて、サポートに来てくれたオリバー相手にポロっとこぼしたら、そんな思いがけない答えが返ってきた。


 「ふうーん……なるほどね」


 「な、なんだよ? なるほどって……」


 俺の言葉にひとりオリバーは納得したようにうなづくと、何やら面白そうに笑っている。


 「近づきにくかった孤高の黒王子が、愛らしい姫と出会って頑なな心を開いたから、民衆も近づきやすくなったと。
 それに最近、王子は姫との逢瀬もままならず淋しそうで、たまっちゃってるからフェロモン濃度も高めというか……」


 「はぁ? なんだその低俗なお伽話は……」


 「王子、姫とどれだけ逢ってないの?」


 えーと……。


 イタリアに一ヶ月。


 その前に二週間パリにいたけど、のだめは仕事で不在のまま、すれ違いで逢えてない。


 そのあと、イタリアから直接客演のためにアメリカに来てしまったから……かれこれ二ヶ月は逢ってないのか。


 季節も変わりそうだ。


 あえて考えないようにしていたから、オリバーに指摘されるまでこんなに時間が経っていたなんて、気づきもしなかった。


 「くくく……わかってるんじゃないか、王子と姫の話。今、のだめとどれだけ逢ってなかったかカウントして驚いてたんでしょ?」


 「う、うるさい……」


 「きっと、その無防備な感じに、民衆も母性をそそられて誘ってくるんじゃない?」


 「……」


 「食事くらいいいんじゃない? お世話になったお礼に。
 ノダメには黙っておくから」


 「オイ……」


 「くくく……冗談だよ。チアキはそういうタイプじゃないよなぁ。
 CAか、実に残念」


 畜生、こんな話するんじゃなかった。


 真一は面白可笑しくからかわれるばかりか、自分たちがどれだけ逢っていないのか思い出されてしまう始末で……。


 淋しくなんかねぇ!


 今の俺は、仕事優先、音楽に没頭して……それでいい。









 オリバーと別れてホテルの部屋に戻る。


 脳内で鳴り響く音楽を追い出してリセットしたいのに、一人きりでホテルの静かな部屋に篭っているとそれも簡単にはいかない。


 シャワーを浴び、ちょっと考えてから冷蔵庫のビールを取り出す。


 メールでもチェックしようとPCを立ち上げると、めずらしくだいぶ逢ってない恋人からメールが届いていた。


 アイツ、こっちが見えてるんじゃねーだろうな?


 あまりのタイミングに背筋がゾクゾクする。


 しかもこのメールの内容は……。


何時はしも 恋ひぬときとは あらねども 夕かたまけて 恋はすべなし


 いつどんな時も、あなたを恋しく思わないことはありませんけど、夕暮れ時、あなたを恋しく思うせつなさは、どうしようもないものです


 千秋先輩、お元気デスか?
 のだめはあんまり元気じゃありまセン。
 どんなに美味しいものを頂いても、先輩のゴハンが恋しい。
 のだめ


 「恐ろしいヤツ……ってか恋しいのは俺のメシか?」


 悪態をつきながらも、思わぬラブレターに真一はあることを思い出し、途端に耳まで熱くさせる。


 すごく会いたくて、のだめにその気にさせろとせがまれて送ったラブレター。


 自分にしてはわりと素直に、めずらしく気持ちをストレートに伝えたからだろうか。


 あのあと、俺の部屋にやってきたのだめは、日ごろの変態加減がなりをひそめて……。


 なんというか……女だった。


 言葉少なく、俺の求めるままに……いや、それ以上に。


 身も心も俺にすべてさらけ出して、快楽を味わって、陶酔して、喜びを伝えてくるアイツのその姿は……。


 最高だった。


 ……畜生。


 今は少しでもアイツに追いつきたくて、がむしゃらに仕事に没頭しているのに。


 明日の本番が終わったら、そのままイタリアにとんぼ返りするつもりだったけど……。


 俺はのだめのメールを閉じると、ブラウザを立ち上げエアーの行き先を変更する。


 覚えてろよ?


 火はついてしまった。


 鎮められるのは、お前だけだからな?




--------END---


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 続きが読みたいというラブコールにお応えして、黒木クンの災難を含めて恋歌シリーズ第四弾です。

 今回は誘惑される真一クンを見てみたくて、こんなシチュにしてみました。
 ちょっと簡単すぎる男でごめんなさい(笑)
 
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