もうガキでもないし、そんなこと気にする必要はないと分かってるけど、でもやっぱり朝帰りは恥ずかしい。
だから、ホテルをチェックアウトして、ブランチをとって、三善家の連中が出払ったころを見計らって帰宅する。
「先輩、今日、峰クンたちと会うんデスよね?」
「あ、それ、キャンセルになった」
「え?そなんデスか……のだめ楽しみにしてたのに」
「まぁ、またそのうち会えるだろ?」
「……そデスね」
三善家の玄関のドアを自分のカギで開け、静かに中に入る。
「ただいま……」
「ただいまデス……」
まるで、門限を過ぎてこっそり帰宅した子供のように、ひっそりと中へ進むと、テラスのほうで何やら人の動く気配がして……。
「おかえりなさーい!」
「ぎゃぼっ!た、ただいまデス……」
「……母さん、帰ってたのか?」
テラスからリビングへ移動して来た母が、にやけ顔で俺たちを迎えた。
「またしばらく会えないだろうと思って、帰ってきたのよ、昨夜。
まあ、あなたたちが帰って来なかったけどね」
「……それは悪かったな……」
「あら、いいのよ?約束してたわけじゃないし。
今夜はどう?久しぶりにみんなで食事でも」
「……わかった」
「のだめちゃんは?」
「は、はいっ、喜んでっ!」
征子は、そんな二人の様子にクスリと微笑む。
「よかったらお茶入れるけど、テラスでどう?」
「じゃ、着替えてくる……」
不機嫌な彼をなだめる方法
真一とのだめが着替えてテラスに下りると、征子がちょうどお茶をカップに注ぎ込むところだった。
「さ、どうぞ」
「……どうも」
「ありがとございマス……」
「それで?初めてのオペラはどうだったの?」
「まぁなんとか……」
俺が母の質問に答えようとしていたとき、母は目ざとく、のだめの左手薬指のリングを見つけてしまった。
「あら、のだめちゃん、それ……」
「むきゃ?」
「はぁーん、そういう事……」
母はにやっと笑って、意味深な視線で俺を見る。まるで昨夜の出来事をすべて見透かしたかのように。
「いやっ、これはその……そんな大袈裟なもんじゃなくて、ちょっと臨時収入があったし、プロのピアニストにチェレスタなんか弾かせちまったから、ちょっとしたお礼というか……」
慌てて言い訳をした俺に、こんどはのだめが表情を暗くしてつぶやく。
「……え?そなんデスか?
先輩夕べは『今すぐは無理だけど、俺にはお前しかいないから……予約してやる』って……。
これはそういう指輪なんデスね……のだめ、誤解してまシタ……」
「ば、ばかっ!そんなこと母さんの前で言うなっ!」
「……ごめんなサイ……。
その上、誤解までして、のだめいい気になってまシタ……。
やっぱり先輩は、のだめなんかと……」
うっ……ううっ……。
声を押し殺して、さめざめと泣き出すのだめ。
「い、いや……ご、誤解じゃねーから……。
俺がそんなこと、いい加減な気持ちで言うわけねーだろ?」
照れてつぶやく真一に、のだめは驚いたように顔をあげ、あっという間に笑顔になる。
「……おめでとうって、言っていいのよね?」
「はぅん、お義母様……」
「……くそっ!」
じゃあ、今日のお食事は婚約のお祝いねっ!いいお店にしましょう!とはしゃぐ母は、じゃあお二人でごゆっくり、とテラスから引き上げて行った。
はぁ……どんな食事になるのか……俺は少し想像をして、憂鬱になる。
「……真一クン、ばれちゃうの嫌でシタ?」
「……そんなことねーけど」
「だって……ここに皺、よってマスよ?」
「もともとだろ……」
先ほどの母さんへのバレ方とか、結果的に母親の前で二度目の約束をさせられたこととか、確かに今の俺はちょっと不機嫌だ。
ちゅっ!
のだめは真一の、皺のよせられた眉間に唇をよせると、ふわっと可愛いキスをする。
「なっ!なんだよ……」
「いろいろ気持ちデス。ありがとうとか、大好きとか、そんな不機嫌な顔しないで……とか」
「……お前の気持ちは、こんな軽いモンなのかよ」
「ふふふ……どうでショウ?」
真一の不機嫌そうな表情は、いつの間にか微笑みに変わって。
微笑みあう二人は、自然と引き寄せられるように、唇を重ねる。
「……なぁ……このワンピースって、この首のところ、結んでるだけ?」
帰宅して、着替えた部屋着のワンピースは、ヨーコ新作のホルターネックで、夏らしい大柄の花柄と、うなじのところで大きく結ばれたリボンが可愛くて、最近のお気に入り。
「……そ、デスけど……」
「……ほどいてみたいな……」
「ば、ばかなこと言っちゃって……」
「……俺の部屋、行かない?」
「……征子ママ、いますよ?」
「……大丈夫だよ……な?」
もう……そんな捨てられた子犬みたいな目で甘えられたら……もう……もうっ!
「……もう……ちょっとだけデスよ?」
捨てられた子犬は、喜びにぱっと微笑み、ぶんぶんと尻尾を振ると、のだめの手を掴んで立ち上がる。
帰ってきた時と同様、手を繋いでひっそりとテラスから真一の部屋に向かう二人。
「もう……先輩のえっちモード、どこでスイッチ入るんデスか?
のだめにはわかりまセン!」
「お、俺だってわかんねーよ……。
でも、スイッチ入れてンのは間違いなくお前なんだから、お前が責任とれ」
「……俺様、カズオ……」
「……うるさい……」
ばたんっ!
そんな三善家の静かな午後の出来事。
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大変お待たせしました!
22222HIT!お礼キリリクSSです。
キリ番ゲッターのたるさくサマからのリクエストは、「オペラ編最終回の時の表紙が大好きで、その表紙でお話ってお願いできますか?(無茶振り)」というものでした(笑)
参考までに、コミック派の方にお伝えしますと、千秋が半そでポロシャツ、のだめちゃんはホルターネックのワンピースでキスしてる、25巻の中表紙のイラストのことです。
そりゃー私も大好きで、ちゃんときれいに保管してへらへら眺めてるけどさ、これ、白バックに夏服の二人がキスしてるだけなんですけど(笑)
なんの背景も浮かばないまま、先日書いた「Engagement」のその後設定で書いてみました。
たるちゃん、いかがですか?なに?物足りない?部屋に消えた二人を書けと(笑)
そこは、皆さまの豊かな妄想力にお任せいたします。
それでは、本日まで当サイトにお越しくださったすべての読者の皆サマと、いつも香水を癒してくれるたるちゃんに感謝の気持ちをこめて献上いたします。
今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。
2010.12.19 香水
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