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「可愛いわねぇ……。 こんな思い、またできるとは思わなかったわ。 のだめちゃん、ありがとう!」 「いいえー。 征子ママに来ていただいて、本当に助かりまシタ。 ベカシーヌちゃんもいるので、だいぶ助かってはいるのデスが、二人となると、やっぱりのだめも真一クンもこのところ寝不足で……」 千秋家に双子が生まれて2ヶ月。 征子は忙しい合間をぬって何とか2週間の休暇をつくり、可愛い孫に会うため、若夫婦の育児の手助けのため、パリの真一たちの家に滞在していた。 生後2ヶ月の双子が短いお昼寝から目覚め、一斉に泣き出したところで、姑と嫁はそれぞれ一人ずつ抱き上げ、慌しくオムツを替えたり、ミルクを用意したりした後、今はソファーにゆったりと腰掛け、胸には赤ん坊を抱きかかえて、一心不乱にミルクを飲む赤ん坊を幸せそうに眺めていた。 「そうよ、赤ちゃんが二人。しかもほぼ同時にミルクだのおむつでしょ? あんまり二人で頑張らないで、もっと私のことも頼ってね?」 「はい、ありがとデス! 蕾ちゃんのときは、母乳だったのでもっと楽でシタけど、二人だとやっぱり母乳じゃ無理みたいで……。 ミルクって結構大変デスよね?泣いてる子を待たせながら、急いで準備して、冷まして……しかもダブルデスから。 あ、でも……ぷぷぷ。やきもち焼かれることはなくなりまシタね?」 「え?やきもち?」 そのとき、二人のもとに、征子の息子であり、のだめの夫である真一が声をかけながら近づいてきた。 「双子にミルクやったら、散歩に連れて行こうかと思うけど、母さんも一緒に行くか?」 「あ、ああー!この人のことね?」 「そうデス。ぷぷぷ……」 「あ?なんだよ?なんの話?」 「なんデモ?征子ママも、お散歩行きマスよね?」 「もちろん!さっきの続きはまたあとで聞かせてね?」 「はい、了解デス!」 「ちっ……感じわりーな?俺だけ仲間はずれかよ?」 「いいのよー。真一はいつものだめちゃんのこと独り占めなんだから。 たまには女同士、内緒話もあるのよ?」 Jealous Lover 俺とのだめにはじめてできた赤ん坊。 女の子で、俺に似てめちゃめちゃ可愛い。 千秋 蕾。 小さな身体にたくさんのエネルギーを宿して、成長して、いつか俺たちにすごい力を与えてくれるような子に育ってほしいとつけた名前。 赤ん坊の性別は、生まれたときのびっくりにとっておきたいとのだめが言ったから、妊娠中はわからなかったし、だから名前も生まれてから考えればいいと思っていたのだが……。 フランスでは、出生届を48時間以内に提出しなければならない。 それを知らなかったために、蕾のときは大変な思いをした。 だから、3年後に妊娠したとき、しかもそれが双子とわかったときは、できるだけ早く性別を知って、名前を準備しておこうと決めていた。 のだめのお腹にいる双子が男子だとわかった時、俺は最高に嬉しかった。 一人っ子で、同性の家族といえばあんな父親だけ。 竹彦叔父さんや俊彦も身内ではあるけれど……。 パリの自宅では、2対1。のだめと蕾の奇声ペアにやられっぱなしの俺。 そんな俺に……心強い味方が二人もできる! 「千秋って姓……めんどくせーな? インパクトが強くて、つけられる名前の範囲を狭めるというか……」 「そデスねぇ……。 女の子なら、将来、千秋姓を捨てることになるかもしれまセンけど、男の子はたぶん、一生そのままデスから……」 「は?今なんていった?蕾が千秋姓を捨てる? バカなことを……蕾を嫁にやるつもりはない。蕾は千秋蕾のまま、清らかに生涯を終えるんだ……」 「バカなこと言ってるのは、どっちデスか? のだめは……NODAMEでありながら、野田恵の野田姓を捨て、千秋恵になったんデスよ? そうさせたのは、誰デスか?」 「うっ……」 「まぁ男の子は、そんなに名前になんてこだわらないデショ? ここはさくっと、真一クンの「真」がついた名前で……どうデス?」 時間がないのも大変だが、時間がありすぎるっていうのも判断が鈍るというか、決断力に欠けるというか……。 俺は大量の名づけ辞典やら、峰から新たに郵送されてきた「決定!俺と清良に子供ができたときの超イケテル名づけ候補☆ベスト100!」やらをテーブルいっぱいに広げ、途方に暮れていた。 「はいっ!じゃあ決定デスよ!」 「う、うん……でも……」 「今さらがたがた言わない!もう、たっぷり時間をかけて熟慮の結果なんデスから……。 これで決定デスよ?」 「……わかった」 俺たちの子供、双子の男子の名前は、千秋 天真(チアキ テンマ)と千秋 純真(チアキ トウマ)に決まった。 「自然のままで飾りけのなく、無邪気な天真クンと、心にけがれのなく、清らかな純真クン。 てんまクンと、とうまクンで決定デス!」 「天真と純真……」 「ぎゃぼっ!胎動デス!ふたりともその名前に満足してるみたいデスよ?」 「嫌がってるんじゃ……」 「そんなわけないじゃないデスかー!パパとママが一生懸命考えたんデス! 二人はとっても喜んでマス!」 どこから湧き上がってくるのか、のだめはいつものように自信満々で満面の笑みを浮かべた。 この笑顔に、俺はいまだに勝ったためしがない。 真一の運転する車で、のだめと征子、蕾と双子たちは近くの公園にやってきていた。 真一は蕾と手を繋ぎ、公園の中を探索中。 ベンチに腰掛けたのだめと征子の腕の中には、双子が気持ちよさそうにお昼寝中。 「ねぇ、のだめちゃん。さっきの真一の……」 「えと、真一クンのやきもちの話デスね?あの……」 「ふふ、もちろん真一には内緒で」 「お願いしマス」 のだめは、征子から約束を取り付けると、公園内を手を繋いで仲良く歩く真一と蕾を見つめながら、思い出話をはじめた。 蕾が生まれて1ヶ月が過ぎ、初めての育児を助けるためにパリに滞在していたヨーコと入れ違いで、真一が演奏旅行から帰ってきた。 「のだめごめんな?一人で大変だったろ?」 「正直言って、この1ヶ月は大変でシタね。 でも、最近の蕾ちゃんは、とってもお利口サンで、すごく楽になりまシタよ?」 「そっか……」 ふたりは、ベビーベッドを挟んで立ち、穏やかな寝顔で眠る蕾を覗き込んでいた。 「なぁ……蕾もうしばらく寝てくれるかな?」 「そデスね、この時間なら3時間くらい寝てくれると思いマス」 「じゃあ久しぶりに、お前のピアノ、聞かせてくれない?」 「そデスね……真一クンに、聴いてもらうの久しぶりデスもんね? いいデスよ?」 リビングでは、蕾がお昼寝中のため、もう一台のピアノが置かれた部屋に移動する。 「リクエストは?」 「うーん、じゃあラヴェルで」 のだめは指慣らしをしながら考えたあと、静かに"水の戯れ"を弾きはじめた。 なんだか母親になったからか……しっとりと落ち着いて聴かせるようになったよな? ん? 途中から心ここにあらずといった風で、のだめは少しテンポ早めになったと思ったら、突然"ごめんなサイ、蕾ちゃんが起きそうデス"というと、演奏途中でリビングに向かってしまった。 「おい……」 部屋を出ていったのだめを追いかけてリビングに向かう。 蕾が起きる? 物音ひとつしねーじゃねーか……。 と、リビングに足を踏み入れた途端、蕾が火がついたように泣き出した。 「はいはい蕾ちゃん、ママはここデスよ?」 タイミングよく駆けつけたのだめが蕾を抱き上げ、あやしながらおむつの様子を確認し、手際よくおむつをかえると、あっという間にソファーに座って母乳を与えはじめた。 蕾は涙を目尻にためながらも、もうすっかり泣き止んで今は夢中でのだめのおっぱいに吸い付いている。 蕾を抱きしめ母乳を与えるのだめはマドンナのような優しい微笑みを浮かべ、蕾を見つめている。 なんだか、俺だけ取り残されたような……そこには母と子、ふたりっきりの完全な世界ができあがっていて、俺が立ち入ることを拒絶されているようで……。 俺はただリビングの入口にたち、見とれるしかなかった。 仕方なく、俺は自分の城であるキッチンに入って、夕食の仕込みを始めた。 しばらくすると、俺の背中に柔らかいものが抱きついてきた。 「真一クン、ごめんなサイ。ピアノ、またあとで弾きマスね?」 「うん……また今度でいい。お前も疲れてるだろうから。 そんなことより……」 俺は、体を反転させ、のだめの顔を覗き込むと、その唇にキスがしたくて顔を近づけた。 久しぶりののだめの唇。 もう何度も重ねた、知り尽くした香りと感触。 久しぶりの感触をたっぷり味わいたくて、ゆっくりと焦らすように重ね合わせる。 徐々に夢中になって激しくなるキスに、俺はずっと触れたかった胸のふくらみに手を延ばしてみるが……。 「ぎゃぼっ!」 のだめは奇声を上げて、俺から飛び上がるように体を離す。 「お、おい……」 「ご、ごめんなサイ……でも、だめデス。今はそゆうのは……ごめんなサイ」 のだめはがっくりと頭を垂れて、俺の前で小さくなっている。 「いや……もうすぐメシできるから、あっちで待ってろ」 「はい……」 なにが嫌だって、のだめが謝ったってことは、俺がのだめに対して腹をたてていたということで……しかもそれは俺の身勝手な欲のためであって……すげー自己嫌悪だ。 俺は結局ショックなんだ。 のだめの現在の優先順位は一番が蕾の母親で、俺の妻であることはその次であることが。 この時期くらい、俺ものだめに合わせて蕾の父親の役割を第一にすれば、きっとうまくいくんだろう。 でも俺だって……お前のこと、女としてすごく求めてるんだよ……。 久しぶりの、我が家での食事。 テーブルには呪文料理。 ついついのだめの好きなものばかり頑張って並べてしまった。 なのにアイツは……。 俺の向かい側にのだめ。 のだめのチェアーの横にはベビーラックの中でご機嫌な蕾。 食事なんてそっちのけで、のだめは蕾に話し掛けながら食事を機械的に口に運ぶ。 「蕾ちゃん、ご機嫌デスね?やっぱりパパが帰ってきたのが嬉しいデスか?」 おい、少しは俺のほうも向け! 「真一クン、ごはんが終わったら、蕾ちゃんのことお風呂に入れてくだサイね?もう、バスタブに一緒に入れマスから……」 「うん……」 はぁ……最悪だな、俺。 子供みたいに拗ねて、少しずつ自分が不機嫌になっていることを自覚していた。 「おい、のだめ。連れてきていいぞ」 「はーい!」 先に一人で入って身体をさっと洗い、のだめから裸ん坊の蕾を受け取る。 「こ、こえー……」 初めてバスタブに蕾を入れるので、ちょっと緊張する。 俺の緊張が伝わるのだろう、蕾も表情が固い気がする。 俺がリラックスしなきゃな。 「蕾、気持ちいいか?」 笑顔で話しかけると、蕾の体の緊張が緩まった気がした。 「お前、ちっちぇーなぁ……」 当たり前だが、小さな手、指、細い手足に、蕾がまだ生まれたての赤ん坊であることを再認識する。 「ごめんな……。 パパはお前にちょっとやきもち焼いてたよ」 精一杯の告白と懺悔。 「ママには内緒だぞ……」 なんだかほんの少し、蕾が笑った気がした。 「おーい、もういいぞー」 「はーい!」 小さい身体を、手を滑らせて落としたりしないように、身体を洗うのはとても緊張した。 お湯で泡を流し、やっとのことで蕾をのだめに渡す。 「あー、疲れた。体が緊張して、コリコリだよ……」 蕾をタオルで包み、水分をふき取っていたのだめがふと顔をあげ、俺を不思議そうな顔で見つめたあと、ぷっと吹き出した。 「な、なんだよ……」 「ぷぷぷ……そんなに緊張した顔の真一クン、久しぶりに見まシタよ?」 「う、うるせえ……」 「パパ、お疲れ様でシタ。愛してマス!」 のだめは笑いながら、蕾を抱いてリビングへと戻っていく。 「……バーカ」 着替えてリビングに行くと、すでに服を着せられた蕾が、ソファーに座ったのだめに抱かれていた。 蕾はのだめに抱かれて、夢中でのだめのおっぱいに吸い付いている。 二人だけの世界だ。 俺は冷蔵庫からビールを取り出してくると、ダイニングのいすに腰掛け、ビールを煽りながら、その姿をぼーっと眺めていた。 ちくしょう……旨そうに吸い付いてやがる。 さっきの懺悔の舌の根も乾かないうちに、俺はまた蕾に嫉妬していた。 ふと、のだめの顔が上げられ、俺のことを見る。 「真一クン……そんなにおっぱいが好きデスか?」 「……悪いかよ……」 「ぷぷ……イイエー。 そんなに思われて、のだめは嬉しいデスよ?」 「ふん……」 「そいえば真一クン……のだめがミルヒにおっぱい触られたって知ったときも、すごおく怒ってまシタね?」 「……は?」 「ぷぷぷ……覚えてないデスかね? せんぱ……真一クン、すごく酔っ払ってて、のだめに"お前は隙がありすぎる!好きでもない男に体を触らせるな!"って……」 「え……」 「そのあと、せん……真一クン、突然のだめに覆いかぶさって、胸に顔を埋めて寝ちゃったんデスよ?」 「……それって、付き合う前?」 「ぷぷぷ……そうデス」 かぁー……。 「のだめはキスも……もちろんエッチも真一クンがはじめてデスけど……。 のだめのおっぱいに初めて触ったのはミルヒデスね……」 「……今さら……そんなこと……(イライラ)」 「でも……のだめのおっぱいに吸い付いたのは、真一クンが初めてデスよ?」 「……」 「だから……ほんの1年くらいデスから、蕾ちゃんのこと許してあげてくだサイ?」 「……あほかっ!もう寝るっ!」 --------END--- 最近、この手のネタが多いような……。 「父」と書こうとして「チチ」と入力したら「乳」が一番で変換されますから(爆) このお話は、ハーモニーサマからメッセージで、「のだめちゃんの初めてキスやエッチは真一君だけど、のだめちゃんの「おっぱい」を初めて触った男性はミルヒーですよね?」とのご指摘をいただき生まれたSSです。ハーモニーサマ、よいネタをありがとうございました。 タイトルの「嫉妬深い恋人」は、本来なら「嫉妬深い夫」なのですが、なんだかそれではおどろおどろしくて(笑) サスペンスものになりそうだったので、恋人にしておきました。 双子ちゃんは男の子二人です! 真一クンの思惑通り、味方になってくれるかどうかはわかりませんが(笑) 天真くんと純真くんといいます。 もう、孫の名づけをするみたいに、楽しませていただきました。 結構気に入っています。 ぜひ、蕾ちゃんともども可愛がっていただけると嬉しいです。 それでは、少し早いですが、真一クンハッピーバースディ! 2011.2.13 香水 SS indexに戻る |