千秋一家が日本の空港に降り立った。
「ふぅ、サングラスも用意してあるし、マスコミ対策は万全デスね?」
「なんか、お前余計に目立たねーか?」
のだめはこの日のために、ヨーコに頼んで某ブランドの今シーズン最新デザインのワンピースを、蕾とおそろいで仕立ててもらっていた。
「だってぇ、もしマスコミに狙われて撮影されちゃうなら、のだめも蕾ちゃんも完璧なスタイルでないと……って軍曹が」
「なんだよ、お前!エリーゼから何を吹き込まれたっ!」
真一は、のだめの口から出たエリーゼの名前に反応して、のだめの首もとをつかみ、ぐらぐらと揺らす。
「ぐ、ぐるじいデズよ……」
「むきゃ!パパやめてくだしゃい!」
「はっ!蕾、ごめんな、パパはママと仲良くしてるだけだからな?」
「むきぃーーー!パパが怖いでしゅー!」
泣き出す蕾に、真一は慌てて蕾を抱き上げると、なだめる。
「ごめんな、蕾、パパが悪かったでしゅ。
三善のばーばのところに行って、美味しいもの食べるか?
ほら、蕾ちゃんの大好きな"なめら〜かプリン”が買ってあるぞ?」
「ほわぉ……なめら〜かプリン、ありましゅか?」
「あるぞ〜!蕾が好きなだけ、食べていいぞ?
パパの分も食べていいからな」
そんな風に親ばか炸裂で、蕾に甘甘になっているところに、突如、カメラの放列からフラッシュがたかれる。
ぱしゃぱしゃっ!
「千秋さーん!こっちむいてくださいー!」
「今回の来日は、やはりパートナー・オブ・ザ・イヤー授賞式に出席のためですかぁ?」
「はぁぁぁ?!」
Gossip! 後編
「もしもしヨーコ?
うん、大丈夫やけん。でも、蕾ちゃんと二人でそっちに行くのは、ちょっと難しそうだから。ごめんね、みんなにもよろしく。うん、ありがと……」
空港で囲まれ、もみくちゃにされながらタクシーに乗り込み、なんとか三善家までたどりついたものの、三善家の広い敷地の外には、数社のマスコミが張り込んでいるようだ。
「大変だったわね。今、しかるべきところに連絡したから、家のまわりのマスコミもそのうち引き上げるでしょ。
蕾ちゃん、大丈夫だったでしゅか?」
「せいこしゃーんっ!」
蕾が征子から差し出された手に抱きつく。
「し、しかるべきところって……。征子ママって、やっぱりカコイイデス……」
「い、一体この騒ぎはなんだよ?
空港でマスコミが言ってた、授賞式がどうのって……。
母さん、知ってるのか?」
「ああ、パートナー・オブ・ザ・イヤーね。昨日、正式に発表があったみたいだけど?
あなたたちには事前に連絡いってるんでしょ?」
「俺は聞いてねーぞ……」
「ぎゃぼっ!ぐ、軍曹が……真一クンが嫌がるだろうから、日本に着くまでは内緒にしておけって……」
「おい……」
真一からたちあがる黒オーラに、征子の腕の中におさまっていた蕾がおびえて、ぐずりだす。
「ふぇ……パパ、ママのこと、怒ってるんでしゅか?」
「えっ!?お、怒ってなんかないぞ?ママとパパはいつも仲良しだろ?
なっ?!のだめっ!」
「のだめは……軍曹に言われた通りにしただけデス……。
真一クン、蕾ちゃんのご機嫌ばっかりうかがって……。
のだめ、つまんないデス。今日は1人で寝てくだサイ?」
ぷいっ!
シマリスのようにほっぺたをぱんぱんに膨らませたのだめが、真一に背中を向けて、寝室へと向かう。
「の、のだめさん?お、おいっ待てって!
……母さん、蕾のこと任せていいかな?」
「どーぞ?ごゆっくり……」
真一は慌てて、のだめを追いかけていく。
「むきゃ?パパとママ、仲良しでしゅか?」
「そーね?これからお部屋で仲良くすると思うわ。
さ、蕾ちゃんはプリンを食べて、ばーばと遊びましょうね!」
それからというもの、真一はマスコミに追いかけられながら、リハに通う毎日になった。
会場にたどり着けば、真澄が待ち受けていて、マスコミをすごい勢いで追い払ってくれるが。
「千秋様っ!真澄幸せです!
また、千秋様と一緒に演奏できるなんてっ!」
「や、やめっ!わかったから抱きつくなっ!」
演奏するのは、あのR☆Sオケでやった、ブラームス交響曲第一番。
さまざまな思いのこもったこの曲を、日本のプロオケと奏でる。
日本を飛び出して、今日までに得たものをすべて出し尽くそう。
最初は父親や妻が有名なピアニストだとか、マスコミで騒がれているとか、あまり好意的に見ていなかったオケメンバーにも、そんな真一の真剣な思いは伝わって、素晴らしい仕上がりで公演の日を迎えた。
蕾のことは征子が見ていてくれたので、のだめは久しぶりに1人、客席で真一の演奏を聴く。
「やっぱり、真一クンの音楽は素敵デス……」
感動を胸に抱えて、真一の楽屋を訪れたのだめは、帰り支度をする真一の胸に飛び込む。
「真一クンっ!」
「うわっ!あっぶねーな……」
「真一クン、今日も素敵でシタ……」
涙にうるんで、きらきらと輝くのだめの瞳が真一をとらえる。
真一も、満足いく演奏と、観客席からの大きな拍手が、まだ自分の中で大きな渦となって熱く猛っており、自分の胸に飛び込んできた愛しい妻を抱きしめると、その熱を移すように熱いくちづけをせずにはいられなかった。
ほんの少し、開いたままになっていた楽屋のドアには気付かずに。
「はぁぁぁ……、本当に俺も行かなくちゃだめか?」
「当たり前デショ?
真一クンとのだめ、二人で夫婦なんデスよ?
そして、その夫婦に対して、国民の皆サンが"パートナー・オブ・ザ・イヤー"に選んでくれたんデスから。
それとも、真一クンはのだめと表彰されるのか嫌なんデスか?」
「そんなわけないだろ……。
ただ俺は、人前でそんなことで表彰されるのが恥ずかしいだけで……」
「そんなコトってなんデスかっ?!」
「いやっ、あの、その……、嬉しいです……」
「はいっ!じゃあ張り切っていきまショー!
のだめと真一クンのらぶらぶっぷりを、皆サンに見せつけに行きマスよ!」
この日、11月22日の「いい夫婦の日」をすすめる会が例年行っている"パートナー・オブ・ザ・イヤー"の表彰式が都内で行われた。
日本から遠く離れたパリに居住し、ヨーロッパを中心に活動している千秋とのだめになぜ票が集まったのかについては、この時期にあわせたように発売された雑誌Numeroの衝撃的な写真と、二人のらぶらぶ度を存分にアピールしたインタビュー記事の存在、それに波及してネット上に流れた数々のゴシップによるものが大きい。
憮然とした表情の真一の横で、良妻スマイルで嬉しそうなのだめ。
真一は最初、羞恥に耐え切れないといった様子であったが、自分の横で幸せそうにインタビューに答えるのだめを見ているうち、"コイツが喜んでるなら、それもいいか?"という気持ちにもなってきた。
「夫婦円満の秘訣は?」
「それはもう、真一クンがのだめのことを宝物のように大事にしてくれることデス!ゲハー!」
「千秋さんは、本当に愛妻家でいらっしゃるんですねぇ?」
「はぁ、まぁ……」
「見ましたよ!今日発売の写真週刊誌!ほんとラブラブですねぇ」
「ほぇ?なんのことデスか?」
記者がにやつきながら、手にした週刊誌を目の前で振る。
「す、すいません、見せていただいていいですか?」
千秋は記者に断ると、写真週刊誌をひったくり、ページに目を通す。
「ぎゃぼっ!」「なっ!(白目)」
"パートナー・オブ・ザ・イヤーに今年選ばれた千秋夫妻は、結婚から5年たってもラブラブ度は下がらず、パリの街中でも、公演のあった楽屋でも、人目をはばからずキスを交わす熱々ぶりで……"
写真週刊誌には、パリの街中、蕾を抱っこして信号待ちをする真一が、隣ののだめにキスをしてるシーンや、先日の新都フィルの楽屋でのだめを抱きしめてキスをするシーンなどが隠し撮りされていた。
「こ、こんな記事や写真、許可してません……」
「いやぁ、事務所に許可はとってあるはずですよ?
あれ?ち、千秋さん、大丈夫ですか?」
青ざめる千秋に、さすがのマスコミもまずいと思ったようで、会見を終了させると、そそくさと立ち去っていった。
「エリーゼ、ぶっころす……」
「ぎゃぼっ!真一クンから、どす黒いオーラが……」
その頃エリーゼは、日本での結果報告を受け、満足気にジャーキーを噛み千切っていた。
「半年間に渡る、"千秋真一・NODAME夫婦、日本における愛妻家、バカップル認知作戦は見事成功だわね。
さ、じゃんじゃん稼いでもらうわよっ!」
作戦は成功したものの、果たしてそのような認知が広がったとして、どのように稼ぐのかについては、われわれ素人には全く想像もつかない。いや、むしろ、千秋真一氏のイメージ、商品価値が傷ついたのではないかとすら心配してしまうのだが(笑)
はたして、エリーゼ軍曹の壮大な、クラシック音楽界を根底から揺るがす構想とは……。
そして、怒りに燃え、復讐のチャンスをうかがう千秋真一との直接対決は……。
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リク祭★第九弾は、ひとぽんサマリクエストのSSです。
リク内容は「いい夫婦の日、パートナーオブザイヤーに選ばれる千秋夫妻のお話です。マスコミに囲み取材される千秋夫妻・・・楽しそうデス。日本のファンはきっと、世界で活躍する若手音楽家夫婦の私生活にかなり興味があると思うんです。そこで、真一クン、のだめちゃん、蕾ちゃんの3人で散歩中の姿をフライデーなんかされちゃう訳です。信号待ちの時にチューなんかしてイチャコラしてる姿を♪そんな時、真一クンにとっては運悪く、仕事で日本に帰国しなければならなくて・・・帰国してみれば、タイミング良くパートナーオブザイヤーに選ばれマスコミの前に出ざるを得ない状況、みたいな。守銭奴エリーゼが裏で絡んでそうな」とのものでした。
ひとぽんサマの楽しい妄想をそのまま、SSにさせていただきました。
リク第八弾のTRESORからの雑誌ネタに繋げて、イチャコラ写真はオチにさせていただきました。
とにかく、お話全般にわたって、へたれ真一クンを小突き回すという、香水には楽しい展開でした(笑) 蕾ちゃんに小突かれ、のだめサンに小突かれ、征子ママに小突かれ……、最終的にはエリーゼ軍曹の手のひらの中で転がされている真一クン。
可哀想すぎ。そりゃダークサイドに落ちますよということで、ラストには復讐に燃える真一クンを期待を込めて書かせていただきました。
いつか、真一クンがエリーゼに復讐できますように(笑)
いつも楽しい妄想リクで楽しませてくれるひとぽんサマに感謝を込めて献上いたします。
2010.11.14 香水
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