芒果布甸/Mango pudding



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 のだめからのおねだり。


 いつもかなり驚かされるけど……。


 今回は驚くというか、意外というか……。


 「家政婦?臨時で?ベビーシッターじゃなくて?」


 「はい……とりあえず臨時でいいデス。

 蕾ちゃんはおりこうさんデスから、のだめ1人でも大丈夫なんデス。

 だから、シッターさんじゃなくて、お家のこと全般、お手伝いしてくれる方をお願いしたいんデスけど……」


 「確かにお前は家事はだめだけど……。
 今までだって、俺が1ヶ月くらい家空けてる間はなんとかやってただろ?
 俺がいる間は俺ができるし……」


 「そなんデスけど……のだめの具合も悪いし、ちょっと将来的にどんなもんなのかお試ししてみたいというか……」





 Gift 後編






 なんだかすっきりしないけど、のだめはのらりくらりと俺の意見をかわし、臨時の家政婦を雇うという希望を押し通した。


 「実はもう……募集もしてて」


 「え?」


 「今日の午後、これから面接に来ますので、真一クンも一緒に会ってくだサイ」


 「……」


 蕾にも選ばせるということで、幼稚園に迎えに行くというあいつを休ませて、俺が代わりに迎えにいった。


 「なぁ蕾。ママ、今日うちに誰かくるって言ってたか?」


 「えと……お手伝い候補サンが来るから、蕾にも好きな人を選んでねって、ママ言ってまシタ」


 「ふぅん……」


 アイツにしちゃ、根回しがいい。


 てゆーか、俺の意見なんか関係ないじゃねーか。


 それに家事なんて……俺が完璧にやってるのに(結構そこが面白くない人)


 なんなんだ?アイツ……。









 面接にきたのは3人。


 40〜50代のベテラン家政婦二人に、20代の新米家政婦一人。


 ベテラン二人はどっちも落ち着いていて……ぽっちゃりと細身程度の違いで、はっきりいってどっちもどっち。臨時ならベテランのうち、どちらか一人でいいんじゃないかと思ったのだが。


 「え!お名前、ベカシーヌちゃんなんデスか?!」


 「は、はい……もうお手伝いさんになるしかないような名前でして……」


 「ふぉぉ!ママ、この女の人、ベカシーヌちゃんなのっ?!
 蕾、幼稚園の絵本でみたことあるっ!」


 驚いた。


 家政婦は初めてだという20代の女性。
 そんな名前をつけるなんて、いったいどういう神経の親なんだか……。


 ベカシーヌというのは、フランス語で「おっちょこちょい」といった意味の言葉で、フランスでは有名なお手伝いさんのキャラクターだ。


 たしか100年くらいの歴史があって、記念切手にもなっていたような……。


 「はい……両親がベカシーヌの熱狂的なマニアで……。
 子供のころは名前のせいでよくからかわれて、絶対に家政婦にだけはならないって思ってたんですけど。

 先日、失業してしまって。派遣登録しようと人材派遣会社に行ったら、ぜったいに家政婦になるべきだって担当者に勧められて。

 その気になってしまいました……」


 そういわれてみると……丸顔の素朴な顔に、赤みのさすほっぺた。


 ブルターニュ地方の民俗衣装が似合いそうな……。


 「ふぉぉ……のだめ、なんだか運命的な出会いを感じマス。

 蕾ちゃんはどうデスか?」


 「蕾は絶対ベカシーヌちゃんがいいデス!」


 「真一クン?
 ということなんデスが……」


 「はぁ……俺の意見なんて聞いてもいねーくせに。
 お前と蕾がもう決めちゃったンだろ?」


 「むきゃっ!パパ大好きー!」


 「真一クン、ありがとデス!アイシテマス!」


 「……」


 なんだか、うまく懐柔されている気がするが……。


 こうして、我が家に臨時とはいえ、初めて家政婦がやってくることになった。









 「おい……本当に大丈夫か?
 名前からいくと、お前を上回るドジっ娘の可能性が高いんだからな?
 くれぐれも目を離すんじゃねーぞ……」


 俺が演奏旅行にでかける日。


 ベカシーヌの仕事はじめでもある。


 「もう真一クンは心配性デスね?
 ドジっ娘の気持ちは元祖ドジっ娘ののだめがばっちり理解できマスから、きっと上手くやれマスよー」


 「……今の聞いて余計に心配が増幅したんだけど……。
 くれぐれも火の元には気をつけて……。
 蕾から目を離さずに、き、危険物はしまっておけよ?」


 「危険物ってなんデスか……」


 「ほ……包丁?とかはさみ?とか……」


 「もう……なんなんデス?真一クンはっ。
 おかしいデスよ?
 がたがた言ってないで、とっとと出かけてくだサイ?」


 「お、おい……」


 俺が玄関先でもたもたして、のだめに追い出されそうになっているところに、ちょうどベカシーヌが出勤してきた。


 「お、おはようございます!ご主人様、奥様!」


 「はうん……奥様って素敵な響きデスね?
 さ、ご主人様、いってらっしゃいませ?」


 ちゅっ!


 「わっ!おまっ!ベカシーヌがいるところでキスなんてすんなっ!」


 「むきゃ?いけませんでシタ?ベカシーヌちゃん?」


 「いいえ?奥様。
 ベカシーヌは御宅では空気のような存在でございますから、どうぞお気になさらず。

 ご主人様もどうぞご遠慮なく。
 お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 「い、いってきます……」


 なんだか調子が狂う。


 家政婦なんて、三善の家にだって千代さんがいたし、めずらしいものでもないのに……。


 でも、ご主人様って言われるのは……初めてだな。


 ……悪くないかも。









 滞在期間のうち、半分が経過した。


 仕事を終えて、ホテルの部屋に戻ると、妻と娘の待つ自宅に電話する。


 「はい、チアキでございます」


 家族以外の人間が我が家にいるということに、俺はまだ慣れない。


 「……あ、俺。のだめは?」


 「ご主人様、お疲れ様でございます。
 奥様はただ今、蕾様と入浴中でございます」


 「そ、そっか……。じゃあ、また電話する」


 「かしこまりました。失礼いたします」


 ぴっ。


 ……俺も今のうちにシャワー浴びちゃうか。


 風呂から上がると、携帯に着信が入る。


 「のだめ?元気か?」


 「元気デスよー。真一クンもお仕事頑張ってマスか?」


 「うん。順調。
 お前は?今週、病院行ってきたんだろ?」


 「はいっ!順調でシタ。
 真一クンに報告があるんデスけど……バレンタインとバースディを兼ねたプレゼントを送ったので、それを見てもらってからにしたいんデス」


 「なんだよそれ……もったいぶんなよ」


 「ふふん。きっと真一クン、びっくりしマスよ?
 だから、お楽しみは先にとっておいてくだサイ?」


 ベカシーヌは名前とは違って、若いわりには落ち着いていて、淡々と仕事をこなしているらしい。


 「最初の日に言われたんデス。
 "名前のことがあるから、おっちょこちょいな失敗だけはしたくない"って。
 だから、仕事はスローかもしれないけど、最初はおおめに見て欲しいって。

 なんでも慎重に、丁寧に仕事をしてくれマスよ?
 蕾ちゃんとも、とっても仲良しデスし」


 「ふーん」


 なんだか俺が家にいない間に、俺だけ仲間はずれみたいで面白くない。


 「真一クン?のだめさびしいデス。早く帰ってきてくだサイね?」


 俺のそんな不機嫌な様子に気付いたのか、無意識なのか……。


 「……バーカ」


 そんなこと言われたら、今すぐ帰りたくなるだろ?









 バレンタインデー。


 仕事から帰ると、ホテルに荷物が届いていた。


 箱をあけると……。


 「お、旨そうじゃん……」


 ベカシーヌに手伝ってもらったのか、のだめにしては形のととのった、ハート型のガトーショコラ。


 粉砂糖で"シンイチクン♡LOVE"のメッセージ。


 蕾からは、画用紙に俺らしき似顔絵と、"パパ大好き!"のメッセージ。


 そしてDVD?


 プレイヤーにセットして再生してみると、ピアノに座るのだめと、チュチュを纏った蕾が映った。


 のだめの即興のピアノ演奏が始まり、蕾が音楽に合わせてにこにこと踊っている。


 蕾は本当に可愛いな……。絶対に嫁にはやらねぇ!


 踊り終わった蕾が、プリンセスのように膝をまげておじきをする。


 続いて……のだめのピアノがハッピーバースディを奏ではじめると、メイド服で正装したベカシーヌがキャンドルの灯ったバースディケーキを手に登場した。(あれ?あのメイド服……見覚えが……)


 三人で"ハッピーバースディ"を歌い終わると、蕾がキャンドルを吹き消し、三人が一斉に俺に向かってハッピーバースディ!と叫び、DVDの再生は終わった。


 あれ?


 確かに楽しかったし、驚かされもしたけど……。


 これがのだめの言ってた、報告したいびっくりか?


 俺はもう一度、箱を覗き込んだ。


 箱の底に……封筒が入ってる。


 中を覗いてみると……エコー画像?


 そっか。この前の検診の画像かな?


 でもこれのどこが……びっくりなんだ?


 俺は首をかしげながら、のだめに電話する。


 「はい、チアキでございます」


 「あ、俺……」


 「ご主人様、お疲れ様でございます。
 ただ今奥様に……」


 「あ、ベカシーヌ……。
 プレゼントありがと、今届いた」


 「は、はい……。

 あのっ、私はいやだって申し上げたんですよ?
 なのに奥様が、どうしてもって!
 ご主人様がお好きだからって!

 あの……どうでしたか?
 その……私のメイド服は……」


 やっぱり!あのメイド服はっっ!


 「う、うん……いいんじゃないかな?」


 「あ、あ、ありがとう存じますっ。
 今、奥様に代わりますね?」


 のだめのヤツ……俺が好きだからって……そんなこと家政婦に普通言うか?


 「真一クンっ!ハッピーバレンタイン!アイシテマス!」


 「う、うん。荷物届いた。ありがと」


 「むきゃ?喜んでもらえまシタ?」


 「うん、すげー元気になった。

 でもお前、俺に報告があるって言ってたよな?
 荷物全部あけたけど……なにが報告なんだ?」


 「えと……エコー画像がありまシタよね?」


 「うん……これこの前の検診の?」


 「はい、そデス……わかんないデスかね?やっぱり……」


 むかっ。


 「ああっ、俺は医者じゃねーからなっ。
 こんなモノクロのもやもやしたものを見たって、さっぱり……」


 「二人いるんデス……」


 「……は?」


 「よく見てくだサイ?  胎嚢っていうんデスけど、赤ちゃんのフクロ、2つあるんデスよ?」


 「え……それはつまり……」


 「ゲハ、双子ちゃんデス。

 バニシング・ツインっていって、初期の段階で片方だけ流産することがあるので、先生から心音が確認できるまでは真一クンに内緒にしておきましょうって言われて。

 でも先週の検診で、ちゃんと二人とも心音が確認できたので……。


 真一クン、一気に3児のパパデスよ、ゲハ」


 双子!赤ん坊が一気に二人……。


 やばい、すごく嬉しい。でも……。


 「お前、一人で不安だったろ?」


 「ほえ?そんなわけないじゃないデスかー。
 のだめと真一クンの子デスよ?」


 「うん……そうだな。

 でも大変だな……一気に赤ん坊が二人か。

 あ、それでお前、家政婦なんか……」


 「ちょっと贅沢かとは思ったんデスけど、一気に赤ちゃんが2人デスから、蕾ちゃんのためにもそのほうがいいかと思って。

 ベカシーヌちゃん、とってもいい子なんデス。
 正式にお願いしても……いいデスよね?」


 「どうせ……もう決定事項なんだろ?」


 「むきゃ。真一クン、優しいデス!ありがとデス!」


 「俺の意見なんか関係ねーくせに……。
 はぁ……頑張って稼がなきゃな」


 「そデスよ?真一クンには、ミルヒを超える巨匠になってもらうんデスから!

 それに……」


 「……なに?」


 「のだめ、まだまだ産みマスよ?真一クンの赤ちゃんを!

 世界中にのだめと真一クンのDNAを増殖させるんデス!
 のだめと真一クンの、世界征服計画デス!」


 「は、ははは……」


 いろいろ……頑張ろう、俺。



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 ノエルパーティーでの予告どおり、のだめちゃんと真一クンに第2子、そして第3子までも!ご懐妊の報告をさせていただきます。

 香水は"アンシリーズ"のマニアでして、のだめちゃんと真一クンにはアンとギルバートくらい子沢山であってほしいと思っています。そして、欠かせない要素として、双子ちゃんと家政婦!ちょっと少女趣味なんですが(笑)

 ベカシーヌちゃんについては、名前をどうしようか検索していたときに、フランスで有名なお手伝いさんキャラと同じ名前だったら面白いかなーと思い、選びました。
 よく知らなかったのですが、日本でいえばサザエさん的に国民的なキャラクターのようです。
 今後の千秋家のお話には欠かせないキャラクターとして、"ベカシーヌは見た!"的なお話も面白いかな?と思っています。

 もう1本、バースディでもバレンタインでもないのですが、双子誕生、お名前発表SSをご用意しております。
 合わせて楽しんでいただければ幸いです。

 それでは素敵なバレンタインを!


 2011.2.11 香水


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