芒果布甸/Mango pudding



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 FLY ME TO THE MOON






 「ぎゃぼっ!」


 「うわっ! なんだ?」


 夕食を済ませたところで、突然停電した。


 慌てて、窓のカーテンを開け、周りを見渡せば、街は真夜中でもありえないほどの真っ暗闇。


 「うちだけじゃねーな。停電だ」


 「テイデン? 何があったんでショウ?」


 俺の部屋には、今日も当たり前のように、のだめがメシをたかりにきていた。


 部屋はいま真っ暗で、お互いの顔も見えない。


 とりあえず、手探りでテーブルの上にあるライターを探しだし、火をつける。


 「懐中電灯なんてあったかな……しかしなんで停電? そんな連絡あったか?」


 「イイエ? あ、そだテレビつけてみまショウ! ニュース速報が出てるかも……」


 「……お前、最上級にアホだな? 停電でテレビが見れるか?」


 「がぼん、そでシタ……」


 「こういうときはネットだろ?」


 「あの千秋先輩? ネットも停電では見られないのデワ……」


 「……け、携帯だよっ! お、俺をお前と一緒にすんな!」


 手探りでテーブルの上を探る。


 「ぎゃぼっ!」


 「わっ! ご、ごめん……」


 暗闇でやみくもに探っていたら、のだめの手を掴んでしまった。


 途端になんだか知らないけど、心臓がバクバクしてくる。


 暗闇と静寂の中、俺たちは今二人きり。


 見えないだけに、視覚以外の感覚が研ぎ澄まされて、のだめがそこにいるという体温や息遣いを感じるから、やけに意識してしまう。


 「あ、あった……」


 指先に触れた無機質の冷たい感覚。ひんやりと感じるのは、俺の体温が高いせい?


 そう考え出すと、なんだか頬も火照ってきた気がする。


 落ち着け、俺。


 二つ折りの携帯を開くと、懐かしい電気系の明かりにほっとする。


 「くそっ、繋がんねー」


 なにか事故が起きているのか、それとも自分と同じようなことを考えている人間が多く、アクセスが殺到しているのか、いずれにしても携帯が繋がらない。


 俺は結局諦めて、そのまま開いた状態の携帯を、テーブルに明かり代わりに置いた。


 普段なら小さな明かりだが、暗闇の中では立派な照明になる。


 「静かデスね……」


 のだめが呟いた。


 普段からテレビなんてろくにつけないし、音楽を聴いているかピアノを弾いていなければ比較的静かな俺の部屋だけど、こうして暗闇に身動きとれずにじっとしていると、静寂といった種類の完全な静けさに包まれていることを感じる。


 「そうだな。車も止まるか、徐行してるだろうし、街ごと音がなくなったみたいだ」


 少しずつ目も慣れてきて、携帯の小さな明かりにのだめの顔がぼおっと浮かぶ。


 普段なら、いらつかされることの多い無邪気な笑顔に、落ちつかされる自分がいて、ちょっと驚いた。


 「なんだかムードがあって、いい感じデスね?」


 「縁起でもねぇ……」


 「そだっ! これだけ真っ暗だったら、東京でも星空が見えるかもしれまセンね?」


 「……そうだな」


 のだめが猫のように四つん這いになって、ゆっくりと窓に向かう。


 「おい待て。危ねーだろ?」


 携帯の明かりで照らしてやりながら、俺ものだめの後を追った。


 のだめが窓を開け、ベランダに出る。


 「星はあんまり見えないケド……、ふおお、満月デスね、すっごく綺麗デス……」


 「すげー明るいな……」


 月の明るさは普段と変わらないはずなのに、暗闇に慣れた目には、満月の明かりは眩しいくらいで……。


 「月明かりっていうのは、こういうことなんデスね……」


 めずらしく詩的な発言をするのだめに、思わず顔を向ける。


 月明かりに照らされたのだめの顔を見つめ、うっかり綺麗だなんて思ってしまったのは、突然の停電による動揺と混乱のせいだ、きっと。


 「なんかピアノ弾きたくなりまシタ」


 「手元が見えねーだろ?」


 「えと、普段からあんまり見てまセンから、大丈夫デス」


 「……あっそ。好きにすれば。でもまともなの弾けよ?」


 「むんっ! お任せくだサイ!」


 流れてきたのは、スタンダードジャズのFLY ME TO THE MOON。


 私を月に連れて行って

 星たちに囲まれて遊ぶの

 木星や火星では、春はどんな風なのか見てみるわ

 だから、私の手を握って

 そして、私にキスして



 俺は携帯を閉じ、のだめのピアノと歌声に耳をすます。


 停電の夜の、のだめからの愛の告白。


 今日だけは美しい満月に免じて、黙って聞いてやる。




--------END---


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 小悪魔のだめちゃんの愛の告白に、俺様真一クンもノックアウト寸前?
 ヤマナシ、オチナシ、誠に申し訳アリマセン。
 リハビリですので、お許しを(笑)

 

 うーん、なかなかイメージにあう動画が見つかりません。
 シナトラのFLY ME TO THE MOONもいいんですけどね、のだめちゃんの愛の告白風ではないし(笑)
 ボサノバにしてみました。


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