芒果布甸/Mango pudding



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 シャルル・ド・ゴール空港、ターミナル2。


 千秋真一は、約1ヶ月ぶりにパリの地に降り立った。


 長距離のフライトも約1ヶ月ぶりだったわけで、いつものように青ざめた顔を隠す余裕もなく、空いているベンチへどっかりと座り込む。


 ミネラルウォーターを口に含み、少しずつ地に足をつけている実感をすれば、その美しい顔に血が通ってくる。


 途端に黒王子のオーラを纏ってしまうから、近くにいた若い女性たちにも彼の存在を知られてしまうのだが。


 そばにいた一人の若い女性が、そわそわと真一を盗み見はじめ、頬を染めていた頃。


 そんな視線にまったく気付かない彼なのに、こちらに手を振る笑顔の恋人の存在にはあっという間に気付き、口元を緩める。


 真一は立ち上がると、恋人に向かって歩き出した。






 Elevator Kiss<Paris Night>






 野田恵は、1ヶ月ぶりに逢える恋人のため、到着するのは21時過ぎると言われていたにも関わらず、昼過ぎからそわそわと落ち着かなかった。


 「ターニャ、どう思いマス?
 千秋先輩的むっつりサンは、どっちが好みでショウか?」


 彼女は、友人のターニャに向かってそう言うと、2着のワンピースを体の前に並べてポージングする。


 1着は、いかにも彼女らしい、清楚で可愛らしいデザイン。
 オフホワイトのシフォン、パフスリーブの膨らんだ袖に襟ぐりと袖ぐりには濃紺のパイピングがされており、ハイウエストで切り替えられたウエストから下はパイピングと共布でふんわりとしたフレアー。ウエスト部分にはフロントにリボンが結ばれている。


 もう1着は、彼女にはめずらしくオトナっぽいシンプルなデザイン。
 ボートネック、ノースリーブだが、ボディーラインにぴったりとフィットするタイトなシルエット。膝下の丈ながら、左サイドにはたっぷりスリットが入っており、露出は少ないが、それが逆にセクシーとも言える。


 「……むっつりは外側なんてなんでもいいんじゃなぁい?中身が好きなんだから。

 大体、あんたたち付き合って何年よ?しかも空港に迎えに行くだけでしょ?」


 「なに言ってるんデスか!付き合って長いからこそ、こゆう気遣いが必要なんじゃないデスか!!!

 しかも1ヶ月ぶりデスよ?千秋先輩だって、きっと盛り上がってるはずなんデス。

 その期待を裏切らないように、たかがお迎えにこそ気を使う!
 良妻のつとめデス!!!」


 「はいはい、付き合ってらんないわー。

 そうねぇ……チアキが好きそうなのは、そのお嬢様系?
 脱がせて乱れたところをむっつりと想像して楽しみそうよね?

 でも意外性ならそっちのセクシー系?
 でも、のだめにこんなの着こなせるの?」


 「むきっ!受けて立とうってんデスよ!
 ターニャ、びっくりして惚れないでくだサイね?」


 「は?なんでワタシが……。
 まぁ、お手並み拝見ね」
 









 「へぇ……のだめ、なかなかやるじゃない?」


 「ふふん、オトナの女を舐めるんじゃないデスよ!」


 恵は、先日ウィンドーショッピング中に、ぜひと勧められて押しの強い店員に試着させられ、まんまと乗せられて購入したヨーコ手作りではないドレスを身につけていた。


 「うん……露出は少ないけど体の線がばっちり出てて、これはむっつりもさぞ喜ぶと思うわ。

 せっかくだから、オトナ顔メイクもしましょうよ?
 ワタシがアンタのために腕をふるってあげる」


 「ぎゃぼ!ターニャメイクデスか……控えめにお願いしマスよ?」


 「……なんだか感じ悪いけど……まぁいいわ。
 この際、チアキをびっくりさせたいし!」


 「むきゃ、先輩がびっくり?
 ぷぷぷ……」










 真一は、恋人の恵に向かって歩き出しながら、何か違和感を感じていた。


 ああ、そうか……いつもならアイツ、駆け寄って飛びついてきて、さっそく"充電"しそうなものなのに、駆け寄ってもこない。


 それに……なんだか背が高くなったような……まさかな?


 ああ、ヒールか。へぇ、ヒールのサンダルなんてはいてンのか……。


 真一は、さりげなく視線をのだめの足元から徐々にあげていき、恵の全体のスタイルを再確認する。


 黒のポインテッドトゥ。


 ストラップのかけられた踵から、すらりとしたふくらはぎがつづき、めずらしくその足はストッキングに包まれている。


 シンプルなボディラインにフィットした黒のドレス。


 胸元はボートネックで隠れているが、フィットしたラインが豊かな胸を逆に強調しているようで。


 ノースリーブからは、黒とは対照的な白くすべらかな二の腕が伸びていて、眩しい。


 微笑を浮かべながら、真一が近づくのをただ待っている恵。


 真一はなぜだか焦りを覚えて、今すぐにでも恵に向かって駆け出したい気持ちになる。


 そんな気持ちを抑えて、それでもやや足早に、恋人のもとへと向かった。










 「先輩、おかえりなサイ!」


 「ただいま」


 微笑む恵は、やっぱり抱きついてくることはない。


 真一は、ちょっと物足りないような、寂しさを感じながらも、恵が腕にかけていたコートを手に取ると、恵の肩にかける。


 「ほら、いくぞ。
 コート着ておけ」


 「むぅ……すぐタクシーのりマスよね?着てなくても大丈夫デスよー」


 ノースリーブから伸びる、綺麗な二の腕を隠してほしいとは、とても口にできない真一は、着るのを渋る恵に向き直ると、手にしていた荷物を足元におき、無言でその腕をとって、袖に通させる。


 「ぎゃぼ!わ、わかりまシタから、自分でできマスよ……」


 真一の手を振り解き、自分で着はじめた恋人に、またもずきんっと胸が痛む。


 "どうしちゃったんだ?俺……"


 真一は、そんな不安げな表情を恵に見られたくなくて、さりげなく時間を気にするように左腕のクロノグラフに目をむけ、のだめの身支度を待った。


 「お待たせしまシタ」


 「ん」


 真一は右手に荷物をまとめて持つと、左腕をさりげなくのだめに差し出す。


 久しぶりに絡められる恵の腕に、やっとパリに、恋人のもとに戻ってきた気がして、ほっとする。


 「先輩、飛行機大丈夫でシタ?」


 「う、うん……ほとんど揺れなかったし」


 「よかったデスね!」


 左腕にもたれかかる心地よい重み。見下ろせば、自分の腕にあごを押し付け、笑顔で見上げている愛しい恋人。


 「なぁ……ちょっと寄り道してもいい?」


 「ふぉ?いいデスよ?どこデスか?」


 「ちょっと……アルコール飲んで帰りたい」


 そっけなく答えると、真一は恵の返事も待たずに、ターミナル2に直結したホテルのモダンなロビーに足を踏み入れる。


 フロントを素通りし、エレベータホールへ。


 「のだめ、俺荷物預けてくるから、ここで待ってて?」


 「はぁい」


 恵はエレベータホールに備え付けられたソファーに座り、真一が戻ってくるのを待った。










 ほどなくして、荷物をあずけ身軽になった真一が戻ってきた。


 ソファーから立ち上がる恵に、さりげなく手を差し出す。


 "くすっ。先輩ってば言葉はないけど、いつも優しいデス!"


 恵は、心がほっこりと温かくなっていくのを感じ、エレベータのボタンを押して、上を見上げて待つ、真一に腕を絡めた。


 ちーん。


 エレベータに乗り込む。21時過ぎのホテルのエレベータホールは閑散として、乗り込んだのは真一と恵のふたりきりだった。


 「先輩……1ヶ月ぶりに逢えたのに、ハグもなしデスか?」


 入り口付近に立ち、背中を向けたままの真一に、恵が背後から呟く。


 ゆっくりと振り返った真一が、ふわっと啄ばむようなキスを1つ。


 「ずいぶん……あっさりデスね?」


 「うるさい……あんま挑発すると、止まんなくなるぞ」


 「ぎゃぼ……」










 バーの入り口で、真一は恵の背後にたち、コートを脱がせると右腕にかけ、左腕を恵にさりげなく差し出す。


 ウェイターに案内された窓際のシートからは、シャルル・ド・ゴール空港の夜景が美しい。


 「俺は……ギムレット。
 お前は?」


 「はぅ……お任せしマス」


 「じゃあ……スプリッツァーを」


 ウェイターが会釈をして下がってゆく。


 「先輩、それどんなカクテルデスか?」


 「白ワインをソーダで割ったカクテル。
 さっぱりしてるし、アルコールも低いから」


 「むぅ……のだめ、甘いのがよかったデス」


 「うるさい。任せるって言ったのお前だろ?

 それに……部屋とったから、一杯飲んだらすぐ行くぞ」


 「ぎゃぼ!いつの間に……」


 真一は、頬杖をつくと、照れているのかそっぽを向いて、窓の外の景色を眺めている。


 「飛行機嫌いの人が、空港なんか眺めておかしいデスよ?」


 「うるさいっ!」










 真一は、本当に余裕がないようで、カクテルを煽るように飲み干すと、恵をせかせてバーを出る。


 ふたたびエレベータホールで、真一は恵に背をむけて、上を見上げたまま。


 「まだのだめのカクテル残ってたのに……。

 てゆーか、どしたんデス?
 空港から1時間半もあれば帰れるのに、ホテルなんて……」


 ちーん。


 無言のままの真一に、恵はたたみかけるように言葉を紡ぐ。


 「むきゃ?もしかして先輩、のだめのこと、お家に帰る時間も待てなかったとか?」


 真一は相変わらず無言のまま、恵の背中をさりげなく支えてエレベータに乗り込む。


 「ぎゃぼっ!」


 真一はエレベータのドアが閉まった途端、のだめを壁に押し付け、性急に唇を塞いだ。


 情熱的なキス。


 ちーん。


 到着を知らせる音とともに、真一の唇が離れる。


 身体が痺れてぽーっとなる恵を見て、真一はにやっと口角を上げた。


 「せっかく恋人がオシャレして迎えに来てくれたから、これでも気をつかってやったんだけど?

 このまま帰るか?」


 真一は、ドアを開けるボタンを押し続けたまま、恵を熱っぽく見つめる。


 「先輩の意地悪!」


 宿泊フロアに足を踏み出した恵の背中にさりげなく手をそえてエレベータから下ろす。


 真一は恵に向かってにやりと笑うと、左手をのだめの右手に絡め、部屋に向かって足を踏み出した。
 



--------END---


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 60000HITお礼SSです。
 キリ番ゲッターのpommeサマからのリクエストは、「私、SSのengagementの中のエレベーターにフェイドアウトする二人がすっごく好きなんです。あの時二人にどんな会話があったのでしょうか・・・。妄想・・・
なのであんな感じで、第3者目線で、さりげなくジェントルマンな真一クンと意外に大人っぽいのだめちゃんで、美しいパリにしっとり溶け込んだオトナな愛溢れる美男美女・・というのを香水さん流に素敵にお願いします!」とのことでした。

 えと……三人称って、こんな感じでよかったんでしたっけ?(笑)

 ジェントルな真一クンはいいとして、オトナっぽいのだめちゃんは……見掛け倒しでごめんなさい(笑)

 美しいパリ……未体験なものですから、こんなシチュで許してください。

 久しぶりの俺様で、香水もきゅんきゅんしましたよ、真一クン。


 それでは、ゲッターのpommeサマをはじめとする皆さまのたくさんのご愛顧に感謝しつつ、お礼として献上いたします。

 今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。
 2011.1.26 香水


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