芒果布甸/Mango pudding



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 二日前、のだめとつまらないケンカをした。


 結婚して半年以上たっても、アイツは以前のままで、あいかわらず怒ってふくれると口をきいてくれない。


 だから、俺の対処法も以前と変わらず。


 何を言ってもシカトするヤツに話し掛けたって、むなしいだけだからな。


 だから普段であれば、のだめを刺激しないように、家の中では小さくなって、まるで嵐の過ぎ去るのを待つように、なにもせずに時が解決してくれるのをじっとして待つだけ。


 でもな……よりによって明日は……まぁいいんだけど……なんとなく……今日のうちに仲直りしておきたいような……。






 ふくれるキミに、振り回されるオレ






 真一クンとのだめが結婚して、かれこれ半年が過ぎまシタ。


 二人は今も変わらず、らぶらぶデスよ?


 結婚してから初めて迎えるバレンタインデー。


 のだめは気合いを入れて、手作りチョコに初挑戦デス!


 都合よく、真一クンはマルレの練習で不在。夫のいぬ間にキッチンに侵入して、愛のクッキングデス!








 「ぎゃぼーーーーーっ!」


 手作りチョコなんて、板チョコを溶かして、型に入れて、デコレーションして……ちょろいもんだと高をくくっていたのデスが……。


 のだめはどうしてこうも不器用なんでショウか?


 ピアノだって上手に弾けるし、髪の毛だって自分でカットしちゃうし、洋裁が得意なヨーコの血を受け継いで、手先は器用なはずなのに……。


 「熱っっ!」


 溶かしたチョコレートを、型に流し込もうと鍋を持ち上げた瞬間、持ち手の熱さに思わず手を放してしまった。


 鍋は不安定に落下、着地に失敗。


 溶かしチョコレートの入った鍋は傾いたまま、重力にしたがって床に向かう。


 視界の中、まるで時が止まったかのようなスローモーション。


 その刹那、慌てて鍋に飛びつこうと踏ん張った右足が、斜め後ろにあるスツールの足に引っ掛かる。


 よろける身体、支えようとして延ばした手が、傾いていた鍋を叩きつける。


 なんとか床に落下する前に鍋を掴もうとした手は空をきり、そのままキッチンの作業台に並べられたボールやへら、型などをすっ飛ばし、のだめの体はそのまま床にたたき付けられた。


 「ぎゃぼーーーーーっ!」


 遅れて落下してきたチョコレート入りの鍋、ボール類が頭上からふりかかる。慌てて両手で頭を隠したケド……。


 ガラガラがっしゃーんっ!


 身体にかかるチョコレートの熱さにのたうちまわり、気づけばキッチンの床も、のだめの体もチョコレートだらけで……。


 はうーーーっ!(号泣)


 「……何事だ?……」


 ショックのあまり、身動きできずに床に寝そべったまま、固まっていたのだめの上から、不機嫌な声がふりかかってくる。


 真一クン、帰ってくるタイミング、悪すぎデス……。
  








 マルレのリハーサルは最悪。


 今回、新しいプログラムに挑戦することになったのだが、一部の団員の極度の練習不足により、奏でられる演奏はバラバラになったパズル絵のようで。


 就任した直後のような演奏。


 デジャブか?


 コンマスの眉間にも、俺の眉間にも、深く刻まれるシワ。


 ところが、まともな演奏もできねーくせに、大多数の団員がそわそわと時計を気にして、心ここにあらず。


 あまりに纏まりのない演奏に、俺は団員を責めるだけではなく、自分の力不足も思い知らされ……かなり落ち込む。


 これから繰り返されるであろう団員との先の長い攻防を思い浮かべ、怒鳴り散らす気力も起きず、予定時間を残して早々に切り上げると、コンマスの声にも振り返らずに練習場を後にした。


 鬱々と帰宅すれば、俺の城であるキッチンから、恐ろしい叫び声と破壊行為でも行われているかのような大騒音がする。


 慌てて駆けつけてキッチンを覗き込むと……俺がつねに清潔に美しく手入れしているキッチンが、侵入者により見るも無惨な状況になっていて……。


 ムッカァーーーッ!


 ったくっ! どいつもこいつもっっ!


 俺をバカにしてんのか?


 床いっぱいに散らかされたキッチンツール。


 なにか黒っぽい液体のようなものがあちこちに飛び散っていて、スツールと一緒に床に横倒しになっている侵入者は、黒い液体にまみれて汚れている。


 甘い匂いがする……ん? これはチョコレート?









 「……これはどんな嫌がらせだ?」


 押さえきれない不機嫌な口調で、真一は侵入者を尋問する。


 「あは……し、真一クン、お早いお帰りで……」


 「……あまりに演奏が酷かったから、今日は練習は諦めて帰ってきた……」


 「ぎゃぼ……とゆことは、ご機嫌はあまり……」


 「かなり悪い……」


 「い、いますぐ片付けマスから、今日はひさしぶりに外食デモ……」


 「……散らかしたヤツが片付けんのは当たり前だろ?
 それに……食欲とか全然ない。悪いけど今日は適当に食べてくれ。
 俺はもう寝る……」


 「え、そんな……だって今日……」


 「はぁ……料理の腕をあげてくれとは言わねーから、せめて俺の城を荒らしてくれるな、頼む……」


 「……」









 俺はのだめの顔も見ずに、寝室に向かってしまった。


 さっとシャワーを浴びると、そのままベッドに潜り込み、何も考えたくない一心で思考をシャットアウトし、ふて寝を決め込んだ。


 翌朝、目を覚ますと、ベッドの隣にのだめの姿はなく、リビングに向かうとダイニングテーブルにはピンクのリボンが掛けられた真っ赤なボックス。


 プレゼント? 俺、なにか祝われることあったか?


 しかも、このうっとうしいくらいに甘甘な色合いはなんだ?


 ……(ぽくっぽくっぽくっ……ちーんっ!)


 はっっ!


 昨日はもしかして……ば、バレンタインっっ?!


 新しいプログラムの勉強に夢中になっていて……そんな世の中のイベントになんて、気付きもしなかった。


 あ……それでマルレのやつらも、昨日は上の空でそわそわしてたのか……。


 もちろんプロなんだから、そんなこと、ひどい演奏の理由にはならないけど……。


 リボンを解き、ボックスを開けてみる。


 中には、不恰好なハート型の手作りチョコレート。


 「……」


 白のチョコペンでへたくそな字で書かれているのは……。


 大キライ≠フ文字。


 はぁ……。またやっちまった。泣けてくる。


 「のだめ? おい、いないのか?」


 家の中を探してみたが、のだめの姿は見当たらず。


 「はぁ……」


 自分のついたため息が、しんとした部屋に響いて。


 「どうしたもんかな……」


 とりあえず、寝すぎてボケボケの頭をすっきりさせようと、バスルームに向かった。









 罪滅ぼし……ってわけじゃないけど。


 ひさしぶりに気合を入れて呪文料理を作る。


 料理のための買い物に出かけて……通りかかった花屋で、すごく小さいけど、ブーケまで買ってしまった。


 現在、時刻は21時半。


 はぁ……メシは食わないつもりだな?


 行き先はターニャのところか、はたまたニナ邸か?


 ま、まさかっ、リュカとかいうヤツのところじゃねーだろうな?


 出るはずはないと思いつつ、携帯に連絡してみるが、留守電に繋がるだけ。


 NODAME, SHINPAI SHITERU.
  IMA DOKONI IRU?


 ピッ!


 がちゃ。


 メールを送信した直後、玄関のドアが開いた。


 かっこ悪いけど、俺はおもわず玄関に駆けつける。


 「の、のだめさん? おかえりなさい?」


 ぷいっ!


 のだめは、ゾクゾクするほど怒りに満ちた瞳で俺をひと睨みすると、ほっぺたを膨らませ、ご丁寧に、俺がたっているのと反対側に顔をそらし、視界に入らないようにして廊下を進む。


 「あ、あの……昨日はごめん?」


 意味がない事だとわかっちゃいるけど、俺を無視して進む背中に、お詫びの言葉を投げかける。


 ズカズカズカッ!がちゃっ、ばたんっ!がちゃりっ!


 のだめは大きな音を立てながら、親父専用のピアノが置かれたゲストルームに入り、内側から鍵をかけた。


 「はぁぁ……」


 どがーんっ!


 「ひぃぃっっ!」


 のだめの篭った部屋から響いてくる曲は、ショパン「革命のエチュード」


 渾身の、怒りのメロディ。


 出だしのfをfffで……(怒りの強弱は最強ってことだな……)


 でも、すごい……。


 怒りに我を忘れ、情熱的にピアノに身をゆだねて。


 真一は、自分が置かれている立場など忘れ、のだめのピアノに背筋がゾクゾクするような快感を感じ、廊下に立ち尽くしていた。









 バレンタインから二日。


 昨日のあのピアノの様子じゃ……のだめの怒りが収まるのは最低でも五日間くらいはかかりそうだ。


 無駄だとわかりつつ、朝食を作るとゲストルームに向かい声を掛ける。


 「の、のだめさん? 朝食ができましたけど……」


 ……。


 はぁぁ……。やっぱだめか。


 諦めてリビングに戻り、ダイニングで一人寂しく朝食を食べていると……。


 がちゃり。


 ドアの開く音がして、目の下にくまをつくったのだめがリビングへ入ってきて、俺の向かい側に無言で腰かけた。


 「お、おはよう……カフェオレでいいか?」


 こくん。


 俺の問いかけに首を縦にふったのだめ。


 「い、今入れるから……」


 俺は、のだめが反応してくれたことだけで、すごく嬉しくて。


 カフェオレを速攻で入れて、のだめの前に置いた。


 「どうぞ?」


 ちらっ。


 のだめは、俺を虫けらでも見るように、侮蔑の視線を投げかけると、黙々と朝食を食べ始める。


 千秋真一……いま怒ったらだめだ。元も子もないぞ?


 耐えるんだ……そもそも俺が悪いんだから……。


 黙々と食事をするのだめに向かい、俺は二日前の自分の状況や、バレンタインに気付いてなかったことなど、散々言い訳をして、あの日ののだめに対する俺の態度を心から詫び、許しを請う。


 しかし、予想通り、まったく無反応なのだめ。


 俺はお手上げ状態で、大きくため息をつき、頬杖をついてのだめから視線をはずすと、所在なくリビングを見渡した。


 その時、あるものが目に入る。


 俺は椅子から腰をあげると、それに近づき、すがるような思いで手にすると、のだめの元に戻った。









 「の、のだめさん、一体どうしたのかな?」


 「のだめさんは、怒っているのよ」


 「ど、どうして?」


 「真一クンがひどいことをしたからよ」


 「へぇ……それはいけないね。真一クンは謝ったの?」


 「謝ったけど……あんなもんじゃ、のだめさんの機嫌は直らないわよ」


 「そっかぁ、困ったね? 真一クンはどうしたらいいのかな?」


 「そうねぇ……そうだ! のだめさんに聞いてみましょう!」


 「うん! それがいいね! のだめさんに聞いてみよう!」


 「「ねぇねぇ、のだめさん? どうしたら真一クンのこと、許してくれる?」」

 のだめの目の前に、一組のカップルが顔をのぞかせ、語りかける。


 「……ぷっ!」


 「あれぇ? のだめさんが笑ってるよ?」


 「ほんとだ! のだめさん、ご機嫌直ったのかしら?」


 「ひっ、ひっーーーっ! や、やめてっ……ぎゃはぁーーーっ!」


 のだめは目の前で繰り広げられる状況に、たまらずふきだし、おなかを抱えて笑いだした。


 のだめの目の前には、一組のテディベア。


 真っ白な衣装を身に纏ったそのテディベアは、イタリアの小さな教会に飾ってあったものを譲り受けた、二人の思い出の品だ。


 その、二体のテディベアを手にした真一は、アルトとソプラノで男女のテディベアの口調を使い分け、まるでパペットを操るように寸劇を繰り広げた。


 ひとしきり笑い転げて、やっと落ち着いたのだめが真一に目をやると、困ったような苦笑いを浮かべて、頬を赤く染める真一がいた。


 「羞恥プレイ……デスか?」


 「……しらね」


 お誕生日前にのだめさんのご機嫌を無事に回復した真一クンは、それはそれは甘いバースディを過ごしましたとさ。


 真一クン、ハッピーバースディ!




--------END---


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 真一クン、ハッピーバースディ!
 バカップルよ、永遠に(笑)

 このお話は、「照れ屋な恋人」が大好きなたるちゃんから以前もらったメッセージ、「あのテディベアは教会からお祝いに贈られて、二人のお家にあるといいな♪」からヒントをいただきました。

 今、長編のDL用テキストファイルを作っていて、ひさしぶりに「照れ屋な恋人」を読み返しているときにそれ思い出し、この真一クンのバースディSSにさせていただきました。

 たるちゃんをはじめとする、「照れ屋な恋人」ファンの皆さま、いかがでしたでしょうか?

 いい成人男性が、必死で女性の声色を出して、演技するシーンに遭遇したことがありますが(仕事で)、それはもう健気で可愛いものでした。

 テディベアを手に、裏声で花嫁ベアの台詞をしゃべる真一クン……ぷぷぷ。ギザカワユス!


 2011.2.16 香水

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