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「……なぁ、いい?」 「……」 「……めぐみ……なぁ、嫌?」 「……もぅ……真一ク……ン、ズル……い……」 「……なんだよ……久しぶりだろ?」 「……あん……の、のだめ……なんだかっ……ねむ……いんデス……」 「……お前、先週もそんなこと言って、逃げてたじゃねーか……」 「……あっ……いやん……そ、そデシた?……うぅん……生理前なんデスかね?」 「……生理?……」 がばっっ! 「おいっ!お、おまっ、先月から生理きてねーぞ!」 「……ほえ?……そデスか?……」 「はぁ……お前ってやつは……」 ニンプな日々 のだめはどこまで行ってものだめだ。 それは結婚する前から、それこそ変態の森の住人になったときから分かりきっていたことではあったが、まさかこんなところまで貫き通されるとは思っていなかった。 妊娠に気付いたのは、俺だった。 2週連続、眠い眠いと夜の営みをやんわりと断られ、"生理前なんデスかね?"とのんきに答えるのだめに、俺の脳内カレンダーがはじき出した答えは"のだめの生理がすでに2ヶ月遅れている"という事実。 いくら変態だって、ありえねーだろ? 「ほら、これ。いますぐ確認してこい」 俺は万が一のために買い置きしておいたブツをバスルームからとってくると、ベッドに横になっているのだめに突き出した。 「ええ?今デスか?のだめ眠い……」 「……」 「は、はいっ、今すぐちゃっちゃと確認してきマスっ」 「……」 「……」 深夜、キッチンのテーブルで妊娠検査薬をにらみつける二人。 「あっ……」 「おお……」 ゲハ。のだめ、ご懐妊らしいデス。 でも、のだめは真一クンが子作りに励んでいたことすら知りませんデシタ。 「はぁ?俺言っただろう?2年目の結婚記念日に……」 「え?いつデスか?」 「えっ!い、いつって、その……アノときに……」 「アノときって?」 「だっ、だからその……、ナニをソレするときに"今日で解禁だからつけねーぞ"っていっただろ?」 「ああー、挿入直前デスか?そんな時に言われたこと、のだめが理解できてるわけないじゃないデスかー」 もうっ、あんなことやら、こんなことやらして、のだめはわけわかんなくなってるんデスからー。 のだめが恨みがましく言う。 そういえば、あの日は記念日ってことで気合い入りまくりだったからな。 のだめはあのとき確か"イイからはやくっ"とかってめずらしく啼いてせがんだんだっけ……。 「真一クン、イヤラシイ顔……いたっ、痛いデス……」 翌日、のだめは病院へ行った。 俺が早く行ってこいと急かして、やっとだ。 空返事ばっかりしてあてにならないので、ネットで検索してご丁寧に地図までプリントアウトして俺も一緒に行くと言ったら"だ、大丈夫デス。一人で行けますから付き添いは結構デス……"と、やっと重い腰を上げた。 「もう三ヶ月に入ってるそうデス。ここまで気づかないなんて、のんびりしてるわねーって誉められまシタ!」 「全然誉められてねーだろ……」 「でもお腹の赤ちゃんは順調に育ってマスよ? これ、超音波画像デス」 「どこだよ、赤ん坊は……」 「……これ?」 「……適当にいってんな?」 「そんなことないデスよ?(めそらし)」 「はぁ……次からちゃんと確認しとけ」 「がぼん……」 のだめは、たいして悪阻もないまま、安定期に入った。 体重もほとんど増えてないし、お腹の膨らみもまだまだだし、今までもワンピースばっかり着ていたから、外から見ている分には妊娠前と変わらず。 唯一変わったのは紐パンをやめたことだけ。 それだって、俺がいい加減やめろと言ってもなかなかやめず、"ひもパンなら、お腹の成長に合わせて結び目を変えればいいんデスから、かえってエコなんデスよー"とか屁理屈を言っていた。 ところがある日、バスルームから 「ぎゃっぎゃぼっ!」 ひときわ大きな奇声が上がったので、何かあったのかと心配して飛び込んだ俺が目にしたものは、紐パンの紐を結ぼうとしたが、お腹の成長に間に合わず、結べなくなってしまったあわれな紐パンの紐を両手に持ち、呆然と立ち尽くすのだめだった。 「……紐を延長すれば……」 「いい加減あきらめろ、お前は妊婦なんだぞ? 紐パンはいてる妊婦なんて、どこ探してもいねーだろ? どこの部族だよ、紐パン族か?あ?」 「ふ、ふぇ……の、のだめのこだわりなのに……、うわぁーんん!」 「お、おい、紐パンくらいで泣くなっ! お腹の子にさわるだろ……」 「ふぇっ、ふぇぇっ、真一クンはのだめのことなんかより、お腹の赤ちゃんのほうが大事なんデスねっっ! うわぁぁぁぁーーーんっ!」 「お、おい……」 見た目の変化も、つわりもない代わりに、情緒不安定も甚だしい。 もともと感情豊かなのだめだから、大して変わらないといえば変わらないのだが。 ちょっとしたことで、とにかくよく泣く。 バルコニーに小鳥がとまっていたといっては感激して泣き、大川から海苔と一緒に腹帯とお守りが届いたときなんか、一時間は泣いていた。 そんな状態でフランスのTVの特別番組でジブリ作品特集放映があった週は最悪だった。 ナウシカで泣き、トトロで泣き、もう涙も枯れて泣けないんじゃないかと思ったが、魔女の宅急便でも泣いていて 「真一クン、ジブリ作品って本当に素晴らしいデスね?明日は火垂るの墓デスよ?」 と言ったときは、 「あ、明日はだめだっ、オペラを見に行く約束だっただろ?三ツ星レストランでご馳走も食べるんだから」 と阻止した。 そデシたっけ?じゃあ録画予約しておかなくっちゃデス!とかいって録画予約セットされていたのは、俺様がさくっと解除。 こんな状態で火垂るの墓なんか見たらマジで泣き死ぬかもしれないからな。だいたい、お腹の子にさわるだろ? そんな順調なニンプ生活だったが、演奏活動は休止することにした。 こんな自覚の足りないニンプをあちこち移動させるのは、俺が心配で仕事にならないから。 「大丈夫デスよー。安定期にはいってるんデスから、ヨロパの中での移動くらい、のだめできマスよ?」 「だ、だめだっ!」 「どしてデスか?」 「お、俺が心配だから……、仕事になんねえ。 頼むからパリにいてくれ……」 「はぅん……今の台詞、もっかい言ってくだサイー! いたっ痛いデスよー! ひどいパパですネ?ベーベちゃんのパパは……」 のだめはいつからか、お腹の子に向かってべーべちゃんと呼びかけるようになった。 産婦人科の医師より、赤ん坊の性別について知りたいか?と聞かれたらしいが、 「出てきたときのビックリにとっておきマス!」 と、なんとものだめらしい返答をしてきたので、俺たちは生まれてくるまで、我が子の性別がどちらなのかわからない。 活動休止中は、ニナの提案で小さなサロンコンサートを開くことになった。 場所はニナが自邸を提供してくれて、俺もパリにいて時間があるときには必ず同行した。 「まったく、シンイチは過保護ねぇ」 「そなんデスよー。のだめは一人で大丈夫って言ってるのにー」 「そんなこといって、お前さっき、そこでコケそーになったじゃねーかっ!」 「はいはい、シンイチがノダメを大好きなのはみんなよーく知ってるから、いちゃつくのは家に帰ってからにしてね」 そんなふうにのんびりと穏やかに過ごしていたニンプ生活だったが、その日は突然やってきた。 まだ予定日より3週間以上前で、俺はオランダに客演で呼ばれていた。 のだめが妊娠してから、パリを離れるときは心配なので、いつも2時間おきに定時連絡を入れていたのだが、この日も本番1時間前に連絡をしたとき、どうも陣痛が始まったようだと言い出したのだ。 「えっ!だってまだ予定日まで3週間以上あるじゃねーかっ!」 「予定日なんて、あくまで予定であって、べーべちゃんが産まれたいときが産むときなんデスよ?」 「そ、そりゃそーだけど……俺これから本番なんだよっ、どうしよう?ど、どうしたらいいっ?!」 「……どうもこうも、真一クンはいつもどおり、楽しい音楽の時間デショ? べーべちゃんはのだめが責任もってちゃんと産みますから心配いりまセン。 それに初産なんデスから、そんなに早く産まれまセンよ? まだ陣痛だって弱いし、間隔も空いてるし……」 「……そんなこと初産でわかるのかよ?」 「わかりマスよ。人間だって動物なんデスからー」 大丈夫、間に合いマスよ?と、いつもどおりのアイツに言われて、そうだ俺は父親になるのだから、こんなことで動揺していては駄目だと、気合いを入れて舞台に立つ。 愛する妻と、これから産まれてくる我が子に向けて、俺は精一杯タクトを振り、音楽を奏でた。 公演終了後、オケの団員やスタッフへの挨拶もそこそこに急いで楽屋に戻ると、のだめに連絡をした。 RRR……RRR……。 "アロー!のだめデス。ただ今電話にでられまセン。発信音の後に……" つ、つながらねぇ! 俺の脳内には、のだめが分娩台で産みの苦しみに悶えている様子が浮かぶ。 仕事柄、出産時には一緒にいられないかもしれないと思っていたし、アイツも立会い出産なんてはなから希望してなかったし、こんな事態も予想してたけど。 でも、できることなら我が子が産まれる瞬間にその場にいたいし、間に合わなかったとしても、できるだけ早くアイツのそばに行ってやりたい。 オランダからなら普段は列車移動だが、今回はそんなことは言っていられない。 空港までタクシーを飛ばし、一番早いパリ行きの便に飛び乗ると、2時間後にはパリの自宅に戻ることができた。 自宅に戻れば、部屋には煌々と明かりが灯っており、のだめがいつものようにリビングで"プリごろ太"鑑賞中。 「オイ……なにやってんだ?大丈夫なのか?」 「あ……真一クンおかえりなサイ。早かったデスね?」 「飛行機乗ったからな……陣痛……今、何分間隔なんだ?」 「えと……陣痛? のだめ、そんなこと言いましたっけ?(めそらし)」 「はぁ……どういうことだよ……本当のことを言えよ……」 「……えっとデスね……、ちょっと便秘だったカラ、先生に妊娠中でもオッケーな弱めの下剤もらってたんデスよ。のだめ、それ忘れてて……。 つまり、陣痛ぢゃなくて、腹痛?」 「はぁ……」 そして2週間後、のだめは無事、元気な女の子を産んだ。 それはまた別のお話で。 --------END--- 10000HITお礼SSです! サイトオープンから1ヶ月あまり、たくさんのアクセスありがとうございました。 キリ番ゲッターの になになサマからは、「なんでもOK」とのことでしたので、皆さまのご愛顧へのお礼&自分へのお祝いという意味でオメデタ話にしてみました。 リク祭でウエイティングのお話に、「出産」「育児」ネタのリクをいただいていたので、先に「妊娠」を書いておきたいなぁということもあり、リク作品お待たせしている中申し訳ないのですが、こちらを先にupさせていただきます。 妊娠については、のだめさんならきっと、ニンプ生活も平常と変わらず、淡々とお過ごしになるのでは?と思い、淡々と綴ってみました。 お気に入りはなんといっても「紐パン族」です(爆) これ、通勤電車の中で書いていたのですが、真一クンの口からこの台詞が飛び出したときには、思わず「ぶほっ!」とふきだしてしまいました。 かなり不審人物だったと思います……。 ゲッターのになになサマはじめとする、本日まで当サイトにお越しくださったたくさんのお客様へ感謝の気持ちを込めて献上いたします。 心より御礼申し上げます。 今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。 2010.10.9 香水 SS indexに戻る |