芒果布甸/Mango pudding



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 星の黒王子さま 最終話






 初めての個展を無事に終え、僕は疲れた体をベッドに沈み込ませ、今日は好きなだけ惰眠を貪って、ごろごろとだらしなく過ごそうと思っていた。


 かちゃ。


 ドアが静かに開いて……黒王子が、黒度二割り増しくらいの真っ黒な状態で部屋に入ってきた。


 「ど、どうした?」


 僕はとても驚いて、すっかり目が覚めてしまった。


 パジャマのままだけど起き上がって、黒王子に椅子を勧めると、慌てて湯を沸かしてコーヒーを入れる。


 しゅんしゅんとやかんから湯の沸く音が静かな部屋に響いて。


 確かにいつもは、俺様だし、口を開けば生意気なことばかりの可愛くない黒王子だけど……。


 だからって、こんなふうに鬱々と落ち込んだ黒王子を見ているのはつらい。


 「よかったらこれ……」


 黒王子にコーヒーを差し出すと、黒王子はありがとう≠ニいって受け取り、黙ってコーヒーをすする。


 「あんまり美味しくないね」


 「あ、ごめん……(むかっ)」


 やっぱり前言撤回! 黒王子なんて……(以下自粛)


 僕が黙り込んでいると、黒王子は突然話し出した。


 「今日、コンセルヴァトワールっていうところに行ってきた」


 「……あ、ああ……音楽院かい?」


 「すごく刺激的だった。俺が昔いた音大と違って、音楽に正面から向き合って、すごい演奏をするやつがたくさんいて……」


 「それは……よかったじゃない?
 君と気が合いそうな人が見つかったでしょ?」


 「うん……何人かの演奏は、俺が奏でたいオケの音が想像できるようなやつらがいて、それはそれで楽しかったんだけど……」


 「……それにしては、あんまり楽しそうじゃないね?」


 僕がそういうと、黒王子はしばらく黙り込んで、一生懸命考えているようだった。


 「……ピアノが……」


 黒王子がつぶやく。


 「ピアノが? どうしたの?
 オーケストラにピアノは関係ないでしょ?」


 「……昔、俺のいたところに、へんな女がいたって話しただろ?」


 「うん……それが原因で、旅に出たって……」


 「アイツ……ピアノはすごかったんだ。
 だから俺は、アイツのことをピアノに関しては特別なヤツだと思ってた。
 でも今日……コンセルヴァトワールに行ったら、アイツくらい上手に弾くやつがごろごろいて……。

 そうしたら、アイツのことが……かわいそうになって。

 俺、アイツをひとりぼっちで置いてくるべきじゃなかったんだ」


 黒王子は搾り出すように最後の言葉を吐き出すと、がっくりと上半身を膝まで折り、頭を両手で抱えてしまった。


 「僕は……音楽のことはよくわからないけど……。
 絵画だって、すごい絵を描くやつなんて、掃いて捨てるほどいるんだ。

 でもね……誰かの心を激しく揺さぶって、捉えて離さないような出会いは、そうそうあるものじゃないと思うよ?

 もし君が、その子のピアノを特別だと思ったなら、それは他のどんなテクニックのあるプレイヤーとも違う、特別なピアノなんだと思うよ?」


 黒王子は、僕の言葉に顔をあげ、とても驚いたような表情になる。


 彼のこんな表情は……初めて見るな。


 しばらく呆然としていた黒王子は、ありがとう≠ニつぶやくと、僕の部屋を出て行った。


 それ以来、僕の部屋には黒王子は来ていない。


 たぶん……元いた場所に、アイツ≠フことを迎えにいったのだろう。


 最近、アパルトマンからよく聞こえてくるピアノの演奏は、とっても変わっていて、ついつい筆が止まってしまう。


 もしかして……と思っているんだけど。


 だったらうれしいな。


 僕は今日も壁の絵を描いている。


 たまにその絵には、黒猫を書き込んでみたりして。


 そんなときは、あの黒王子の不機嫌な顔を思い出す。


 どこかで幸せになっていてほしいと願いながら。



------- END---


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