芒果布甸/Mango pudding



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マエストロの婚礼 ハネムーン番外編



 「やっぱり……俺は砂浜で……」


 真っ白な砂浜。美しいブルーの海に打ち寄せる白い波。


 真一は、物心ついてから初めて水着を身につけ、のだめに手を引かれて、波打際に立っていた。


 なんで俺、アイツの口車に乗せられて、海水浴してみようなんて思っちまったんだ?


 のだめに誘われるまま、ここまで来てしまったが、実際に波打際にたってみると恐怖が押し寄せ、手足が震える。


 「だめデス!せっかくなんデスから、カナヅチも克服しまショウ!
 もし、真一クンとのだめに子供ができて、パパが一緒に海水浴してくれなかったら、子供が悲しみマスよ?」


 「うっ……」


 めずらしく、のだめが真っ当な理由を盾に真一を追い詰める。


 「絶対、手放すなよ?」


 「放しまセン!」


 「約束だぞ?もし約束破ったら……」


 「真一クン、往生際が悪いデスよ?」


 のだめはいつまでも躊躇する真一になんとか覚悟を決めさせると、真一の手をひき、海に向かって走り出した。


 「むっきゃぁぁーー!」






 はじめての海水浴






 ばしゃばしゃ……。


 海に向かって走り出したのだめに引きずられ、真一の足先が冷たい海水につかる。


 その刹那、真一の足元に、波(極小)が押し寄せる。


 「ひぃーーーーっ!」


 真一はのだめの手を力いっぱい引き、のだめの体もろとも波打際まで引きずり戻すと、波の届かない砂浜に座り込み、ぶるぶると震えだした。


 「し、死ぬ……」


 「……真一クン、何してるんデスか?ほら、行きマスよ?」


 「む、無理……。
 波が……波が俺を海の底に引きずり込もうとして……。
 お、大波が……」


 「真一クン……そんなにでっかい浮輪をはめて、何言ってるんデスか……」


 確かに、砂浜に座り込みガタガタと震える真一の腰には、特大120センチサイズの浮輪がしっかりとはめられていた。


 「大丈夫デス、のだめがずっと手を繋いでマスから。
 大川のマーメードが一緒なんデスから、真一クンは絶対に溺れまセンよ?」


 「ほ、本当に?」


 真一は、大きな体をガタガタと震わせ、捨てられた子犬のような目で、のだめを縋るように見つめる。


 「本当デス。だいたい、そんな大きな浮輪をして、溺れろってほうが難しいと思いますケド……」









 のだめは考える。


 この人は今、大きな身体をした子供だ。


 浮輪があるから、海に飛び込んでしまえばこっちのものだと思ってたけど、そんなに甘くはなかったようだ。


 のだめは作戦を変更して、徐々に真一を海に慣れさせることにした。


 「さ、真一クン、怖くないデスから、まずは膝まで足をつけてみまショウ!」


 「う、うん……」


 よたよた。


 のだめに手を引かれ、恐る恐る、海水に足をひたす。


 「真一クン、波はお友達デスからね、真一クンと遊びたいからやってくるんデス。
 ほら?なんともないデショ?」


 「……」


 真一は真っ青な顔で、腰にはめた浮輪とのだめの手をぎゅっとにぎりしめ、膝までつかった足に打ち寄せる波(極小)の恐怖に堪えている。


 「ほら、大丈夫デショ?」


 「……う、うん……」









 真一は今、必死で恐怖と戦っていた。


 波が押し寄せてくるのを見ると、理屈では大丈夫だとわかっていても恐怖でいっぱいになる。


 そうだ、見ているから怖いんだ。


 真一はのだめの手と浮輪をしっかりにぎりしめると、ぎゅっと目を閉じる。


 ざざーん……。


 静かな波の音は聞こえるけれど、打ち寄せる波が見えなければ、そんなに怖く……ない?


 さわさわ……。


 膝に感じる波は、すぅっと真一の足を撫でると、あっという間に消えてゆき、くすぐったいほどである。


 真一は思い切って目を開けてみた。


 小さな波が白い泡をたてて足元で踊っている。


 寄せては真一の足をくすぐって、ひいてゆくだけの事。


 「は、はは……たいしたことねーな……」


 真一は引き攣りながらも、なんとか口許にぎこちない微笑みを浮かべた。









 「さ、波に慣れたら、こんどは腰まで浸かってみマスよ?
 大丈夫、浮輪があるから必ず真一クンの体は浮くし、のだめも手を繋いでマスからね」


 「う、うん……」


 のだめは後ろ向きで、両手で真一の手を引きながら、少しずつ真一の体を海の中に引き込んでゆく。


 「真一クン、ほら下向かないで、のだめのこと見てくだサイ?」


 「う、うん……」


 遠浅のビーチなので、腰までつかる深さになるには、結構な距離を進むことになる。


 波打際ではぱしゃぱしゃと泡をたてていた波も、どんどんと穏やかになってゆく。


 ふわりっ。


 真一のつま先はまだ海の底に届いているけれど、特大浮き輪の浮力も手伝って、体が徐々に浮き始めているのを感じる。


 真一の顔に、なんとも不思議な表情が浮かんでいる。


 怖いような、それでいてわくわくするような、純真な子供が見せるような無邪気な驚きの表情。


 のだめはなんだか自分のことのように嬉しくなってきた。


 「さ、真一クン、思い切って足を蹴り上げてみてくだサイ?」


 「う、うん……」


 ぷかーん。


 両手をのだめに引かれ、特大浮き輪に体を支えられて、真一の大きな体が海面に浮き上がる。


 「ほらっ!真一クン、今、海の上に浮いてマスよ?わかりマス?」


 「う、うんっ!」


 真一の顔に、無邪気な子供のような満面の笑みが広がった。









 ざざーん……。


 照りつける太陽。どこまでもつづく真っ白な砂浜。


 のだめはパラソルの下で膝を抱えて座り込み、波打ち際を見つめている。


 視線の先には、1才半を過ぎた愛娘の手を引く、愛しい夫。


 「はははっ!蕾は怖がりだなぁ。
 いいか?波はお友達だぞ?蕾に遊んでほしくて、やってくるんだ。
 ほら?なんともないだろ?」


 初めての海に怖がる蕾の手を引き、波打ち際でばしゃばしゃと楽しそうな真一。


 「ぷぷぷ……。真一クンてば、あの時の経験が生かされてマスね?」


 のだめは腰を上げると、真一と蕾の元に駆け寄り、二人と一緒に遊びはじめる。


 ビーチで遊ぶ三人の家族の姿は、まさに幸せそのもの。


 三人の中で一番の笑顔を見せる父親が、まさか数年前まで海恐怖症だったとは、微笑ましく見つめる周囲の人たちには、わかるはずもない。


 だって、本人すら以前の自分の恐怖など、思い出せないのだから。


 そんな幸せいっぱいの、千秋真一31歳、夏の思い出。




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 新年あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

 2011.1.3に50000HITしておりました。ありがとうございます!
 キリ番ゲッターのAndanteサマ、おめでとうございます♪
 特にキリリクはいただいてないのですが、マエ婚の落ちが大好きというお話でしたので、その続きを書いてみました。で、落ちがイマイチですいません(爆)
 ただただヘタレな真一クン、特大浮き輪をはめた真一クンが見たかっただけの香水です(土下座)
 幸せそうな3人に免じて、お赦しください。

 また、お正月休みに新作、書きまくるぞと意気込んでいたのですが、全然書けてませんorz
 人間、食べて飲んで寝ていると、だめみたいです(汗)
 4日から仕事始めで、やっと前頭葉が働き始めた気がします。まだペースが遅いのですが、長い目で見ていただければ幸いです。

 それでは、これまで当サイトにいらしてくださった皆さまに感謝の気持ちを込めて献上いたします。

 今後も芒果布甸/mangopuddingをよろしくお願いします。
 2011.1.6 香水