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マエストロの婚礼 最終話 地平線にイタリアの大きな太陽が沈むころ、美しい夕暮れをバックにマルレオケメンバーは再び音楽を奏ではじめる。 「ノダメ、私と踊っていただけますか?」 「はいっ!」 「シンイチは私と踊ってくださる?」 「もちろん」 シモーナ夫妻と花嫁花婿がダンスを始めたのをきっかけに、ほかのメンバーたちもダンスに加わる。 黒木とターニャ、フランクとRui、ジャンとゆうこ。恥ずかしがる清良も、峰に引きずられるように踊りはじめた。 征子はダンスのパートナーとしてひっぱりだこで、ヴィエラと踊ったあとは、シモーナの夫、フランク、ジャンと途切れる事がない。 テーブルに戻って、雅之と一緒に母の様子をやや複雑な心境で眺めていた真一のもとに、征子がやってくる。 「ひとり息子は、私と踊ってくれないのかしら?」 「え?勘弁してくれよ……」 「うふふ……冗談よ」 「……なんなら、俺が相手してやってもいいぞ」 「あら?別れた夫に同情されるほど困ってないのよ、ごめんなさい?」 「……あの牧師とかか?若すぎるだろ、何歳離れてるんだよ……」 「まぁ、雅之さんったら妬いてるの? そんなこと言われる筋合いじゃないと思うけど」 「なっ!なんで俺が……」 そこへテオが踊ってほしいと征子を誘いにくる。 「じゃ、そういう事だから。 私と踊りたかったらちゃんと申し込んで頂戴、順番にお相手するわ」 そういって征子は美しい微笑みを浮かべ、唖然とする雅之と真一にひらひらと手をふり、テオと腕を組んで去っていった。 夕闇のダークブルーが濃くなるころ、楽しいパーティーはお開きとなった。 「真一、明日の朝、またマリーナまで来て頂戴」 「え?」 「今夜、ここに泊まるメンバーで、朝食をクラブハウスで取ることにしたから」 「……わかった」 のだめは、ヨーコと辰男に抱きつき、幸せの涙を流している。 「千秋くん、ピアノ以外はなんの取り柄もない娘だけど、よろしくね」 「はい、お約束します……」 真一もおいおいと泣き続けているヨーコと辰男の熱いハグを受け、のだめの両親の深い愛情を胸に刻み込んだ。 「おい……お前らどういう事だよ……」 「だって、シモーナの家だって、さすがに収容人数に限界があんだよ。この小さな街にはホテルは一軒しかないし。しょーがねーだろ?」 「はぁ……」 マリーナからホテルに戻ってみれば、峰・清良、黒木・ターニャ、フランク・Ruiのカップルと、真澄、佳孝、俊彦の3人もホテルに泊まるという。 「僕は由衣子たちと一緒にシモーナの家でよかったのに佳孝君が……」 「だって!俺ひとりで真澄さんと一夜を過ごすなんて、危なかろーもん!」 「真澄は構わないのに……」 そしてのだめは、香港旅行での謎がようやく解けたようだ。 「ぎゃぼっ!Ruiに『愛される喜びを教えてくれている』のって……ふふふふフランク?」 「ほんと、ノダメって鈍いよネ……」 花嫁と花婿は、やっと友人たちから解放され、ホテルの部屋に戻ってきた。 「真一クン、疲れちゃいまシタ?」 「うん……でも楽しかったな、意外と」 「むきゃ?素直な真一クン……」 「なぁ、さっきのあれ……、約束って有効だよな」 「ぎゃぼ……きょ、今日は真一クンもお疲れデショ?」 「うん、すげー疲れてる……」 "だから新妻に癒してもらわないと……" のだめの瞳を熱い眼差しで見つめ、真一は花嫁を抱き抱えると、シーツの海に飛び込んでいった。 リンゴーン……。 ん?鐘の音? あ、そうか、昨日は……。 真一は、かすかに聞こえてくる鐘の音に目を覚ました。 うつぶせの姿勢から、ベッドの右側を手で探るが、シーツは空っぽだ。 「……」 両腕を伸ばしながら、仰向けに身体を反転させ、抱きかかえていた枕に頭を乗せ、辺りを見渡す。 すると、見慣れないホテルの部屋の、朝の光が差し込む窓の前に、のだめの姿を見つけた。 「おい……下着くらいつけろよ?」 真一の声に弾かれたようにのだめが振り返る。 何も身に纏わず、白く美しい肌を惜しげもなく朝日に晒して、日の光に負けないくらい眩しい笑顔で真一を見つめると、のだめは真一めがけて一直線に走りこんでくる。 「真一クンっ!」 「重てーよ……」 のだめは、ブランケットをかぶった真一の上に跨って、いたずらっこのように笑っている。 「重たくないデショ? 真一クン、おはようございマス」 「おはよう、のだめ」 「昨日は大変デシたね……。疲れとれまシタ?」 「うーん……、まだ疲れてる……」 そういって真一は口角を上げると、その長くて美しい指をのだめの肌の上にのばす。 「じゃあ、のだめが癒してあげマス……」 ばふっ!(注:説明はいたしません。何が起きているのか想像してください) 「ふがっ!ぐ、ぐるしい……ご、ごれ癒じだのが(これ、癒しなのか)?」 「真一クンの大好きなものデショ?」 「……」 「ぎゃはぁ……真一クン、今日も元気デス……」 「お、おい……やめ……」 「……」 注:事故ではありません。意図的に空白にしております。 皆サマのたくましい妄想力で何が起きているのか想像してください。 おっと、反転させてても何もかかれてませんよ(笑) 「うっ!……」 「ゲハ。 真一クン、疲れとれまシタ?」 「うん……のだめの疲れもとってやる……」 「やんっ……」 リンゴーン……。 小さな街の小さな教会から、時を告げる鐘の音が鳴り響く。 まるで、二人の幸せを祝福するかのように。 昨日からの続きで、明日までの通過点だった"今日"が終わり、"明日"が何ごともなかったかのように訪れる。 それでも、真一の身体の中は、なんともいえない満足感と幸福感に満たされていた。 朝から愛の挨拶を交わし、さっぱりとシャワーを浴びると、疲れているはずなのに足どりも軽く、マリーナのクラブハウスに向かう。 すでにクラブハウスには真一とのだめ以外のメンバーが勢揃いしており、全員がにやついた冷やかしの表情で二人を迎えた。 峰たちのテーブルに着くと、真一の身体を肘で突きまくる峰。 「ふっふっふっ、昨日はよく眠れたか?」 「……おかげさまで」 朝食を済ませ、食後のエスプレッソを飲んでいると、突然、マリーナが爆音に包まれた。 「ん?」 「ふぉ?」 征子が携帯を手に真一に近づいてくる。 「はい、あなたの師匠からよ」 「え?」 携帯にでてみると、シュトレーゼマンの脳天気な声が聞こえる。 「チアキー!昨日はさぞやお楽しみだったことでショウ、このむっつりがっ!」 「なっ!朝から何ですか……」 「相変わらず可愛くない弟子デス。 まぁとにかく、迎えをやりましたから、のだめちゃんとそれに乗りなさい」 「はぁぁ?!何のことですか?」 「優しい師匠から、結婚のお祝いです。マリーナに来てるデショ?」 「は?ちょっと外が騒がしくて、聞き取れないんですが……」 「ぎゃ、ぎゃぼっ!真一クン、そそそ外……」 「え?」 のだめに腕をひっぱられ、クラブハウスの外に目をやると、爆音を響かせながら、マリーナの桟橋にヘリコプターが一台、着陸する。 「い、いやだ……絶対乗らねーからな……」 「なんでこんなことに……」 用意周到な計画に嵌められ、真一とのだめは今、イタリア南部のリゾートに立っていた。 有無を言わせず簡単な荷物と一緒に身体をヘリコプターの狭い機内に押し込められ、爆音を立てるペリコプターの中で、真一は気を失う。 のだめに体を激しく揺さぶられ、意識を回復してみれば、そこは365度を海に囲まれたビーチリゾートだった。 「真一クン、どうしまショウ?陸の孤島デスよ?」 「なっ!」 白目をむいて危うくもう一度気を失うところを、すんでのところで踏み止まったのは、のだめからのありえない言葉。 「海水浴しまショウ!」 「はぁ?!」 「真一クン、もう大丈夫デショ? 見たくないデスか?のだめのビキニ姿」 「……」 真一は物心ついてから初めて、水着というものを身につけた。 目の前は美しいブルーが広がり、足元はふわふわと心地よい真っ白な砂浜。自分の左側には、布の面積が極端に小さい、刺激的でキュートなビキニを身につけた愛しい妻。 「真一クン、心の準備はいいデスか?」 「……おい、絶対俺の手を放すなよ?」 「放しまセンよ?」 「や、約束だからな……」 「はいっ!」 「も、もし約束破ったら……」 「……真一クン往生際が悪いデスよ?」 のだめは突然、背伸びをすると真一にキスをする。 「なっ!」 「誓いのキスデス。さ、覚悟を決めて行きマスよ?」 真一は覚悟を決めると、ごくんと唾を飲み込みのだめに無言でうなづいた。 「むっきゃあーーーーーっ!」 のだめが真一の手を引き、ハイテンションで海に向かって駆け出す。 「おいっ!そんなに走るなっ!絶対、手放すなよ!」 「放しまセンよーーー!」 イタリアの美しいビーチに幸せな二人の叫び声が響き渡る。 しっかりと繋がれた手。 白い砂浜をのだめにひっぱられる格好であっても、真一の表情はなぜか晴れやかで。 今までは、自分にとって恐ろしいだけの存在だったそれが、のだめと一緒であれば、なんだか楽しく思えてくるから不思議だ。 目の前には白い波を立てる、美しいブルーの海。 真一とのだめが海に飛び込むまで、あと一歩。 -------end-- ★マエストロの婚礼、ご愛顧ありがとうございまシタ! |